鳥を握る
「お客さまお見えになりました」
わたしが案内すると先生は「はい、準備万端です」と返事した。雨上がりの中華街はまだ煙っていて、隣の店からはふわりとお香の匂いが漂ってくる。ごみごみとした路地の突き当たり、この占い処に在籍するのは ...
亀の背中
志紀がわたしを呼びだすときは大抵ろくでもない用事だが、今回はちょっと度を超していた。
「できちゃったんだよね、宇宙……」
わたしは水槽の前で呆然とする。水槽の底には「兄さんが置いてった」というアミメニシキヘビがとぐ ...
鬱の湯
極まってきてどうにもならなくなったので何か楽しいことはないものか、いやしかしそれをするだけの体力と気力はないといった状態で、ただなにをするでもなく虚空を見つめていた。そこに見かねた同居人が「銭湯行こ」と声をかけてきた。私はうーんと間 ...
鳩造りの工程
「鳩が造れることを発見したわ」
宮野誉ほまれがそう言ったのはある冬の放課後だった。小倉闇子あんこはいつものように「ふうん」と心ここにあらずな返事をした。二人は学園のベンチに座っていた。今日は図書室が書架整理のため閉室していた ...
ウロツツキ
祖母はよく物を失くす人だった。ちょっとしたもの、飴だとか消しゴムだとか、そういったものならいいのだけど、実印を失くしたこともあってそのときは大騒ぎだった。ちょうど遊びに来ていた母と私が捜索に乗り出し、しかし祖母ひとりだけのほほんとし ...
白鷺憑姫
あなたは最近同じ夢ばかり見ています。舞台はこの屋敷のようです。白無垢の花嫁の姿は悍ましいほど美しく、血の気の引いた白い貌かんばせはまるで人形のよう。雪の小径に川が流れるように、純白の着物に緑青色の帯が映え、なんとも艶やかに見えました ...
無見(むみ)
二◯二一年五月二十六日。私は夜な夜な家を出て、街灯の少ない小町大路をそろそろと歩き始めました。夏の気配がほんのり香る涼しい夜でした。小町大路を真っ直ぐ行けば材木座海岸に辿り着きます。風の強い日は潮の香りが陸まで盛り上がってきて、そこ ...
逆さ鳩
「ちょいとちょいと」
黒マントが怪しげに手招きしておりました。たかしくんは言いました。
「不審者にはついていかないことにしてるんだ」
「そんなこといわずお待ちよ、時間を巻き戻せる鳩だよぉ」
黒マント ...
がまぐちぎょろめのグラム・スピナー
一
タチヨタカ(Nyctibius griseus)は、メキシコ南部からパラグアイにかけての中南米に生息する鳥類である。枝に垂直に立って止まることからタチヨタカと呼ばれている。夜行性で昼には目を閉じて身体 ...
アホウドリ
夕方、家にもどってくると、部屋の真ん中に大きな卵があった。おそろしく大きな卵である。机の上から零れ落ちそうなほどの大きさで、それ相応にふくらんでいる。かすかに左右にゆれていた。なんとも不思議でならず、そろりそろりとナイフで裂いた。も ...