Works,公募小説,幻想と怪奇SSコン

「お客さまお見えになりました」
 わたしが案内すると先生は「はい、準備万端です」と返事した。雨上がりの中華街はまだ煙っていて、隣の店からはふわりとお香の匂いが漂ってくる。ごみごみとした路地の突き当たり、この占い処に在籍するのは ...

Works,公募公募,坊っちゃん文学賞,小説

 祖母はよく物を失くす人だった。ちょっとしたもの、飴だとか消しゴムだとか、そういったものならいいのだけど、実印を失くしたこともあってそのときは大騒ぎだった。ちょうど遊びに来ていた母と私が捜索に乗り出し、しかし祖母ひとりだけのほほんとし ...

Works,公募いなか、の、じけん賞,公募,小説

 二◯二一年五月二十六日。私は夜な夜な家を出て、街灯の少ない小町大路をそろそろと歩き始めました。夏の気配がほんのり香る涼しい夜でした。小町大路を真っ直ぐ行けば材木座海岸に辿り着きます。風の強い日は潮の香りが陸まで盛り上がってきて、そこ ...

Works,公募公募,夢野久作童話賞,小説

「ちょいとちょいと」
 黒マントが怪しげに手招きしておりました。たかしくんは言いました。
「不審者にはついていかないことにしてるんだ」
「そんなこといわずお待ちよ、時間を巻き戻せる鳩だよぉ」
 黒マント ...

Works,公募BFC5,小説

          一
 タチヨタカ(Nyctibius griseus)は、メキシコ南部からパラグアイにかけての中南米に生息する鳥類である。枝に垂直に立って止まることからタチヨタカと呼ばれている。夜行性で昼には目を閉じて身体 ...

Works,公募カフカSSコン,公募,小説

 夕方、家にもどってくると、部屋の真ん中に大きな卵があった。おそろしく大きな卵である。机の上から零れ落ちそうなほどの大きさで、それ相応にふくらんでいる。かすかに左右にゆれていた。なんとも不思議でならず、そろりそろりとナイフで裂いた。も ...

Works,公募カモガワ奇想,公募,小説

 楽園に放たれるのは、罪を犯した者らしい。「星」に上陸する者は記憶を消去される取り決めなので、わたしは自身の罪を覚えていない。手元にあるのは小さなノートと筆記具で、始めのページには、自分宛の覚書が簡潔に記されていた。
「わたし ...

Works,公募かぐやSF,公募,小説

 発端は第99回鳥人間コンテストだった。当時わたしは東京万能大学飛行部の学生で、その日はわたしの人生で一番の大舞台となるはずだった。わたしはパイロットだった。仲間たちと力を合わせ作り上げた機体、その翼とともに天を翔ける権利を得た唯一の ...

Works,公募公募,小説,文藝賞短篇部門

「メインターゲットは二十代から三十代の女性、カップル、ファミリー、羽田匠ファン、M♡N(モノ)Φの藍川芽乃ファン、ラブコメ好き、原作ファン。サブターゲットは森川信介ファンの四十代から五十代、コアな映画ファン、流行に乗りたい新しいもの好 ...

Works,公募コバルト短編小説新人賞,公募,小説

 飛沫があがり、子どもたちがこちらへ向かってくる。ストン、ストンと次々にプールへ飛び降りて、ゴーグルをかける。私が合図に手をパンと鳴らすと、子どもが壁を蹴ってスタートする。バシャバシャと威勢がいい。バタ足で十五メートル。それを三本。こ ...