鳥を握る
「お客さまお見えになりました」
わたしが案内すると先生は「はい、準備万端です」と返事した。雨上がりの中華街はまだ煙っていて、隣の店からはふわりとお香の匂いが漂ってくる。ごみごみとした路地の突き当たり、この占い処に在籍するのは先生一人だけで、中華街の他の占い処とは雰囲気が異なっている。先生は派手な呼び込みもしないし、千円で手相を見てくれるわけでもない。競争の激しい中華街にあって、この店は少々特殊な立ち位置を占めていた。ネット上には簡素な予約フォームがあるだけなのだが、静かにクチコミが広まって客が途切れることがない。ちょうどやってきたこの客もどこかから噂を聞きつけたと見えて、緊張した面持ちで、軒先に吊るされた羽毛付きのてるてる坊主をじっと眺めていた。先生の「奥へどうぞ」という声と一緒に、店の奥からチュリンと鳴き声がして客の顔がほころぶ。わたしは二人の邪魔にならないようにカウンターの方へ移動して、ぼんやりと二人のやりとりを聞いていた。
「鳥占いと神鳥護符でご予約いただきましたね」
「転職するかどうかですか」
「それではふくたろ先生にお願いしましょうか」
鳥かごの扉が開かれ、パササと軽い羽音が聞こえてくる。鮮やかなイエローのセキセイインコがよちよちと先生の指に乗ってきて、客が「わあ」と呟いた。ふくたろは先生の飼い鳥で、占いもできる特別なインコだった。
「はい、じゃあまずはお客さんにお辞儀してくださいね」
という先生の声で、ふくたろが頭をちょこりと下げた。アイスブレイクが終わったところでいよいよ本題へ入る。先生がタロットカードを並べると、ふくたろはタタタ……とすかさず一枚を選び取った。
「これね、いま皇帝が出ましたね。もしかしていまの会社で上司とあまり上手くいってないのでしょうか」
このあたりで客はいつも「どうしてわかったんですか」とか「え、そうです、そうなんです」とか、目の色が変わる。先生とふくたろの占いが外れるのをわたしは見たことがない。黄色い小鳥がちょろちょろと動き回り、自分の身丈ほどもあるカードを引いていく。先生は時折ふくたろにご褒美のシードをあげながら、ふくたろに次々とお願いをする。「それでは転職だけじゃなくて部署移動も検討できそうですね」とか「星のカードが出ていますから、希望はすんなり通るでしょう」とか、会話から次の未来を導いていく。客はすっかり前のめりだ。カウンターからでは表情が伺い知れないが、きっと晴れ晴れとした顔をしていることだろうと思う。
「それでは最後に、あなたの未来をふくたろが応援しますからね」
そう言うと先生は、小さなパレットと色紙を取り出してきて、ふくたろの足に絵の具をつける。ふくたろは平然と先生の手のなかに握られて、脚をぴんと伸ばして朱色の絵の具の上で足踏みした。
先生が色紙のうえでふくたろを放すと、ふくたろはぺったんぺったんと色紙の上を歩き始めた。その足跡はくるくると螺旋を描いて、途中、タタタタ……と向きを変え、この世に唯一無二の模様を滲ませた。
「あらすごい、ふくたろが円を描くときはごきげんなときなんですよ。きっとあなたの未来に良いことがあるから、それに同調して、嬉しくなっちゃったのでしょう」
先生はふくたろの脚をウェットティッシュできれいに拭き取ってあげながら歌うように言う。客は「ふくたろ先生、ありがとうねえ」とふくたろの頬を指で柔らかく撫でた。ふくたろの描いた色紙を手に持って、客が席を立つ。わたしはカウンターで支払いを受け付けた。決して安くない金額だが、この店を出ていく客は誰一人として辛い顔をしなかった。
野菜はなるべく中華街で買うようにしている。八百屋から出るとちょうど先生に出くわしたので、一緒に帰路につく。小振りなケージに入れられたふくたろがチュリンと鳴いた。
一年前、Twitterのフォロワーが突然「同居人を探しています」と募集をかけるのを目にした。そのアカウントの呟きといえば「また炊飯器の中がカビだらけになった」とか「部屋中のペットボトルを掻き集めたら三袋分になった」といったような内容ばかりだったので、傍目からも「この人には家事ができる人が必要だものなあ」と思ったことを覚えている。わたしはちょうど学生で生活費を切り詰めたかったし、家事は別段苦手ではなかったので、メッセージを送ったところ、とんとん拍子に話が進んだのだった。まさかフォロワーが占い師だったとは当時は思いもよらなかったけど、卒業を間近に控えた今は暇なこともあって、たまに店番を任されるまでになっていた。地下鉄に二十分ほど乗って、さらに十分ほど歩く。好立地の一軒家を先生は所有していた。両親が早くに他界していて、それから実家に一人で住み続けているのだという。家に来た当初は、業者を呼んだ方が良いのではと思うほどに家中が荒れていたが、今はおおかたのものを捨ててしまって、家事もわたしが主に担当することで、なんとか家の形が維持されている。
「私は、鳥と共鳴しあっています」
私が家にやってきた最初の日、先生はおもむろに口を開いた。
「これを見て、受け付けられないと感じたらこの話はなかったことにしてください」
先生は、玄関のすぐ隣の部屋を開けた。家中が散らかっているのにその部屋だけは塵一つ落ちていなかった。わたしは、三脚で固定されたカメラと天井から吊るされた縄、大きなたらいを見た。何をする部屋なのか全くわからなかった。
「類感呪術というものをご存知ですか」
先生はスマートフォンを開いて、動画を再生した。この部屋で撮られたものだった。先生と、女性と、女性に抱かれるニワトリが映っていた。動画のなかの先生が、ニワトリに手を当てて何かぶつぶつと呟いている。
「古くから、鳥には人を癒す力があるとされてきました。わたしの主な収入源は呪術なのです」
わたしには、鳥に痛みを転移させる力があります、と先生は言った。鳥と深く共感し、鳥に癒やしを与えたり奪ったりすることができる。大きな病気をして、あらゆる希望にたらい回しにされて、どうしようもなくなってしまった人が縋る最後のよすがとして、人の病をニワトリに「移す」ことが私の仕事です。そう先生は告白した。占い師ですらあくまで表の顔で、裏では怪しい呪術を行っているのです。大人二人は十分養える額を、それで稼いでいます。
「効果はあるんですか?」
「あります」
「ニワトリはどうなるんですか?」
「死にます」
わたしは数秒沈黙した。あまりにも突拍子もない話で混乱したのだ。先生が嘘を言っていないのは口調からなんとなくわかったし、それでもそんな非科学的なことが実際に起こりうるのか疑わしかった。先生は、ひとまず続きを促した私の目線に応えて、こう続けた。
「大プリニウスによれば、イスカという鳥は病気の吸引装置であるとされてきました。ドイツではリウマチの治療にイスカが使われ、ニュルンベルクでは籠に入れたイスカが悪い病気を引き受けてくれると信じられていました。イスカだけではなく、ウェールズではニワトリに癇癪を移して治していました。子どもの痙攣に鳩の尻を押し付けて治したという話もあります。ただしほとんどの場合において、鳥は人間の病を治すのと引き換えに死んでしまうのです」
「先生は、この部屋で何羽もニワトリを殺しているということでしょうか」
わたしの質問に、今度は先生が沈黙した。しばしあってのち、先生はわたしの目を真っ直ぐと見て返事をした。
「その通りです」
「今日は鍋ですよ」
「豆乳ですか?」
「そうです」
結局わたしは先生と同居することを決めたのだった。先生はベジタリアンだった。それも同居する条件をすり合わせているときに知って、わたしは別段食に興味もないので了承した。実際に一年過ごしてみても支障はないと感じる。先生が肉を食べるのは「あれ」の後だけだった。
「私なりの供養です」
先生は言う。先生は「あれ」が終わってニワトリが息を引き取ると、その部屋で血抜きをして、ニワトリを解体した。わたしは出所のわからない義務感に襲われて、一度だけニワトリの解体を見学したことがある。先生の刃は滑らかで、つるりとニワトリの肉の中に吸い込まれていった。
「卵詰まりを起こして、死ぬのを待つだけになった雌鶏を、農場から引き取って使わせていただいています」
先生が心臓を切り出しながら言った。「住宅街ですから、外で解体するわけにもいきませんし、家庭ゴミとして出すのも問題がありそうですから」心臓は小さくて赤黒かった。こんなもので生き物が生きたり死んだりするのか、とあっけなく思った。
豆乳鍋は美味しくできて、わたしは食後のデザートに苺を洗った。ふくたろはリビングのケージの中で、ブランコに乗りながら羽をふくらませてうとうとと眠っている。温かい蕎麦茶と一緒に苺を食卓に出すと、先生は礼をして苺を口に放り込む。ゆっくりと噛んだあと、先生は静かに切り出した。
「また鬱転し始めているかもしれません」
先生は双極性障害を患っていて、一人暮らしで部屋が荒れていた原因の一つがそれだった。普段は薬で躁鬱の波を均していて、鬱が酷いときでも出勤することはできたが、それでも朝なかなか起き上がれない先生を無理やり起こして支度させるのは骨が折れた。
「ひどそうですか」
「ここ数年で一番ひどいです」
先生は睡眠導入剤が効いてとろんとしてきた目でわたしを見た。
「そういえば、一週間後にまたあれがあります」
「わかりました」
「あれ」があるときは、わたしは外で時間を潰すことにしていた。食器を下げて、先生が寝室へ行くのを見送る。わたしは苺の皿を洗うことにして、そのまま台所に引っ込んだ。
先生が泣いているのを初めて見た。
要領を得ない、しかし異様に取り乱した電話が先生から掛かってきたのは「あれ」のために外に出てぶらついていたときで、急いで家に帰ったら先生が玄関で泣き崩れていた。長身が腰のところでカクッと折れて荒々しく手折られた花のようだった。先生が両手を差し出して、手の中にはふくたろが目を閉じて転がっていた。一瞬で死んでいるのだとわかった。眠っているのとは明らかに違う、脚はくるりと丸められ、身体の硬直が始まっていた。「あれ」の部屋には死んだ雌鶏もいた。部屋の中央に、タオルにくるまれて安置されていた。とりあえず先生をリビングまで連れて行き、ハーブティーを淹れて落ち着くのを待った。先生は途切れ途切れに、ときに嗚咽を挟みながら、涙ながらに話し始めた。
今日の客は、いつも以上に骨の折れる相手で、ニワトリがなかなか死ななかった。余命宣告を受け、どのような治療をしても改善しなかったのだとやってきたのは代理人で、依頼人は寝たきりでどうにも外出ができる状態ではないのだという。これまでにもそのようなことはあったので、先生は代理人の持ってきた、依頼人の衣服や毛髪などを使って何度も試行錯誤して、三時間粘ったすえにようやくニワトリが息を引き取った。代理人が帰って、ふとメールボックスを見ると、今までに見たことがないほどの夥しい量のメールが届いていた。どれも罵詈雑言で、混乱した先生がTwitterを開くと、「ニワトリを殺す呪術師がいる」というツイートが大量に拡散されている様子を目の当たりにする。事の発端は、難病患者のアカウントに善意で「これでわたしは病気が治りましたので試してみてください」とリプライをした元クライアントだった。先生は、依頼フォームに呪術の内容を一切公開していなかったのだが、興味を持った患者に元クライアントが「ニワトリに病を移すことができる凄腕の呪術師さんです!」と追加メッセージを送ったところ、それがたちまち拡散されたのだった。いかにもインターネット上で受けそうなトピックで、人々が一斉に飛びついた結果、一瞬で嫌がらせのメールが殺到した、という経緯だった。
先生はパニックになって気を失ってしまったらしい。しかし、意識を取り戻したときに羽音が聞こえたような気がして、気づけば涙が出ていた。嫌な予感がし、慌てて鳥かごを見に行くと、ふくたろが隅にうずくまり眠るようにして死んでいたという。
「きっと、私が勝手に移してしまったんです、私のストレスをふくたろに、気をつけていたのに、勝手に術が発動したんです」
わたしは先生にティッシュを手渡し続けることしかできない。以前から懸念していたことではあった。先生は繊細すぎるがゆえに、鳥と心を通わせ合えるのだし、繊細すぎるがゆえに、いつかそのことで傷つくはずだった。そして、予想していた通りの言葉が先生の口から吐き出された。
「私は、これをもって、殺しをやめることにします」
幸い先生は金遣いの荒い人ではなく、貯金はあった。わたしはこうしたことも見込んだうえで就活をしていた。四月からは新卒の収入でも、やりくりすればなんとか二人で生きていけるだろう。しかし、抜け殻のようになってしまった先生のことはやはり心配だった。先生は昼ごろに起きるようになっていて、食事は珈琲と抗鬱剤のみになった。わたしはプリザーブドフラワーを想起した。先生は、欠けることもなく朽ちることもない、完全な物体になろうとしている。先生の部屋にはわたしは立ち入らなかったけど、物音から察するにまたゴミ部屋に戻ってしまっていた。
先生は昼間、ソファに身を横たえながら繰り返しレコードを聴いている。ドビュッシーの名作を集めた盤で、先生はそれしか聴かなかった。そんな日々が数ヶ月続いた。先生が三日間部屋から出てこないことがあった。どうしたのかと思ったら、庭先で鳩の死骸を見つけた。仕方がないので、何重にも袋で詰めて、外から見えないようにして家庭ゴミに出した。
ニワトリを殺す呪術師の話は、インターネット上ではすぐに忘れ去られた。先生のスマートフォンからメールのアカウントをログアウトさせて、わたしがメールを管理するようにした。いたずらメールや取材の依頼は無視してゴミ箱に投げ捨て、切実そうな依頼には丁重にお断りのメールを書いた。数ヶ月すれば落ち着いて、メールも届かなくなった。中華街の占い処は休業扱いにしていて、賃料の兼ね合いでそろそろ決断しなければならない時期にきていた。
ある日、わたしは先生を外に連れ出した。先生は嫌そうにしていたが、わたしがどうしてもと言って譲らなかったので渋々わたしに付き従った。やってきたのは保護鳥預かりセンターだった。先生の顔が恐怖に引き攣った。わたしは先生が頓服を飲むのを待ってから、静かに言った。
「なにも考えなしにここへ連れてきたわけではないんです。先生の力は大変だと思うけど、きっと鳥を殺さない方法は見つかります。たとえばこの施設であれば、鳥がたくさんいて念が分散するだろうから特定の鳥が死ぬことはないでしょうし、きっといずれ一対一で鳥と接することもできるようになるはずです。現にふくたろとは数年やれていたわけですし、今はただそれが少し不安定になっているだけですよ」
要は先生のリハビリなのだった。わたしの考えでは、今の先生は鳥がいないことによって余計おかしくなってしまっている。先生と鳥との間にある絆は強力なもので、一方が欠けていることできっと不安定になっているのだ。いまの先生は美しかったが、それはこの世にあってはならない、おぞましさを備えた美しさで、先生はこの世とのつながりを断ち切ろうとする黄昏の力によって雁字搦めに沈められようとしていた。
「夢の中で、鳥たちが、今まで死に追いやってきた鳥たちの目がこちらを向いています。その目は物を言いませんが、私にはそれが恨みなのだとわかります」
先生は、ぽつりとこぼした。わたしは先生に触れた。先生がびくりと肩を震わすので、落ち着くのを待つ。「先生の苦しみは、わたしにも伝わってきます。なにも、鳥だけではない。人は多かれ少なかれ、他人と痛みや苦しみをわかちあえてしまうものです。先生はそれが他の人より少し得意なだけです。それが原因で辛いことや苦しいこともあるでしょうが、これからはわたしもいますし、鳥たちは別にあなたのことを恨んでいませんよ。ふくたろが、あなたを恨んでいると本気でお考えですか?」
先生と暮らし始めて、出歩くと鳥の姿がよく目につくようになった。わたしは鳥ほど優しさに溢れた生き物はいないのではないかと思い始めた。それはきっと偏った見方であるし、先生とふくたろという種を超えた信頼関係を間近で目にし続けたからというのもある。ふくたろはきっと、ただ先生を慰めたい一心だったのだ。
わたしたちはセンターの中に入った。やかましい鳥の鳴き声がこだましている。大型のインコやオウムがほとんどだった。鳥たちは、通り過ぎて行くわたしたちをじっと見つめた。その目は穏やかで、この次元を超越した何かを見通しているかのようだった。先生がふと、一羽のヨウムに目を留めた。
「わかるよ」
ゆっくりと、ヨウムが言った。
わたしたちは、週末になるといつもセンターに訪問した。次第に先生の調子は落ち着いてきた。数いる鳥たちのなかで、先生はいつも、同じケージの前で立ち止まった。ヨウムがじっと先生を見つめ返して、「わかるよ」と返事する。先生はそれを聞くと頷いて、それでその日は夕飯の食材を買ってから帰宅する。そうした日はきまって、先生はよく眠れるようだった。
そんな日々が続いたある日、わたしは先生のメールボックスに一件のメッセージを見つけた。謝りたい、というのがそのメッセージの内容だった。
先生に切り出すかどうか迷ったが、結局言うことにした。メールの送り主は、先生の炎上と廃業の原因となった、Twitterで先生をおすすめした元クライアントだった。一度お伺いして謝罪をしたいということで、わたしには正直、それを受け入れる意味はないように思えた。今さらなんなのだという怒りもあった。しかし先生は、わたしの剥いた梨を静かに齧りながら、
「はい、謝罪を受け入れましょう」
と、ぽつりと言った。
わたしはある提案をし、先生もそれを受け入れたので、その場はお開きということになった。わたしは梨の皿を洗いに台所へ、先生はのろのろと寝室へ向かった。
謝罪にやってきたのは、五十代ほどの女性で、何度も玄関口で土下座をしようとするのでそのたびにわたしが彼女を起こさなければならなかった。リビングへ上がってもらうのだけでも大変で、結局、用意していたケーキと紅茶を囲むまでに三十分ほどかかった。先生は、謝罪を受け入れること、力があるとはいえ常にこれでよいのか葛藤していたこと、むしろ良い機会になったのだということを訥々と語り始めた。女性は何度も相槌を打ちながら、「でも先生のおかげで助かった人はたくさんいますから……先生にこれからも治療を続けてほしいとは、わたくしの立場からは口が裂けても申し上げられませんが……わたくしの命が助かったのも先生のおかげですから……」と涙を流し始めた。わたしはなるべく物音を立てないようにしてケーキをゆっくり、ゆっくりと食べていた。
「わかるよ」
突然、灰色の鳥が、女性の目を見つめてゆっくりと言った。
女性がはっと顔を上げて、心底不思議そうな顔をした。
「なぜかしら、なんだかとても胸が軽くなりました」
ヨウムはリビングに備え付けられた大型ケージの中から、こちらをじっと覗いていた。
「わかるよ」
先生が席を立ち、ヨウムにひまわりの種を与えた。ヨウムは器用に種を脚で掴み、嘴で殻を割って中身を食べ始めた。
「私は、これでよかったのだと思います」
先生がケージの傍で姿勢を正した。窓から緑色の光が柔らかく差し込んできた。瑞々しい茎と、色づいてゆく蕾の季節だった。
「わかるよ」
ヨウムが言った。もう一度。
「わかるよ」
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