開闢

Works,小説

 カーン。
 その音からすべてが始まった。
 その音で、彼らは見た。木漏れ日の揺れる影、雷を湛えた紫雲、黄金色の風、零れ落ちんばかりの赤い実、肌凍る雪礫、眩く突き抜けるあの青の涯。
 彼らは包まれている。明るい闇だ。彼らはぐるりと取り囲まれている。彼らはそこに凭れかかる。安心して目を閉じ切っている。すべてが内側にある。安全に完結された世界で彼らは鼓動を感じる。それは彼らが彼らであることを始める前からそこにいた。彼らの鼓動と合わせるように、彼らよりも幾分穏やかに、彼らに時を教えていた。
 彼らは回転する。彼らの最も安定する言葉を見つけるため。彼らはそこで初めて自分の形を知った。濡れている。生温かい。閉じられた目が感じとる。
 光を知った。形は、彼らが中にいることを教えた。彼らの中と、彼らの外があることを教えた。突然、外が揺れた。彼らが揺れるのとは違う。彼らが揺れることと、外が揺れることがあった。光が彼らの体に当たった。彼らは照らされた。彼らは思い出した。ずっと昔にもこの場所にいたことを。そして、いつまでもここにはいられないことを。
 この場所はなんなのか。彼らの感じたどこよりも穏やかで、どこよりも孤独で、どこよりも退屈だ。退屈を知った彼らは問いかけた。問いかけは、揺れと熱になって彼らのもとへ舞い戻った。彼らはしばしの間、満足した。
 日に日に、彼らは目まぐるしく動くようになる。形は光を、光は問いかけを、問いかけは動きを教えた。彼らは彼らの形で、どのように動くことができるのか、少しずつ、少しずつ、ためらいながらも試した。脚が上がった。何かにぶつかった。外があるのだ、外が!
 彼らは目を開けた。何も見えない。見る、見るとはなんだろう。しかし彼らは一度はそれを知っているはずなのだ。脚を動かした。何かに触れた。彼らの一部だった。柔らかく、毛が生えている。そして、湿っている。生温かい。外から熱が伝わってくる。今では彼らはそれがどこからやってくるのか知っている。愛だ。愛がずっとそこに横たわっていた。愛の中で、彼らは彼らを見出した。彼らは、同じ体を持っていた。彼らの体は、発見された。
 翼があった。彼らはそれを何に使うのか知っていた。遠い昔に見た景色を思い出した。彼らはそこに行かなければならなかった。でも、どうして?
 彼らはもう一度問いかけた。どうして?
 あともう少しだった。何かを掴めそうだった。彼らは、彼らは目を開いた。彼らの知る最も美しい色がそこに広がっていた。くすんだ白い完璧な形。彼らは辺りを見回した。知っていた体を確かめた。
 おそるおそる翼を動かしてみた。翼はくすんだ白に遮られる。彼らはすべて思い出した。
 カーン。
 その瞬間、すべて忘れた。あっという間に向こう側へ過ぎ去っていった。知った形を、光を、問いかけを、動きを、彼らはすべて忘れてしまった。最後に愛だけが残った。愛がそうさせた。
 カーン。
 光が差した。彼らが初めて見る光だった。白い完璧な形が、照らされた。明るい闇が、溶けていく。私たちはここから出て行かなければならない。だが、寂しくはない。
 カーン。
 彼らは、嘴で突き破った。
 彼らを待っていた。
 たった一音。それが、彼らが奏でる最初の音楽。ようやく現れた我が子を、母鳥が優しく見下ろしていた。