フランシス・ホジソン・バーネット『秘密の花園』感想

2023-02-13DiaryC0197,書籍感想,長編感想

フランシス・ホジソン・バーネット 著・畔柳 和代 訳『秘密の花園』(新潮文庫)

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読み始め:2023/2/13  読み終わり:2023/2/13

あらすじ・概要
十歳にして両親を亡くし、親戚に引きとられたメアリ。顔色も悪く愛想のない彼女を唯一楽しませたのは、ひっそりと隠された庭園だった。世話役のマーサの弟で、大自然のなかで育ったディコンに導かれ、庭園と同様にその存在が隠されていた、いとこのコリンとともに、メアリは庭の手入れを始めるのだが――。三人の子どもに訪れた、美しい奇蹟を描いた児童文学永遠の名作を新訳。

読んだきっかけ
小学生のとき一度挫折して以来たびたび気がかりな本だった。「庭」について知りたかった。

コメント・感想
 〈魔法〉についてのお話。うまく感想が出てこない。とても良いものを読んだという気持ちだけがある。すぐにでも庭に行きたくなる。植物や土に触れ、鳥のさえずりを聞き、新鮮な空気を胸に取り込みたくなる。グルメな本で「よくこんなに食べ物を美味しそうにかけるものだな」と思わされるものがたまにあるが、『秘密の花園』は、その自然版だと思う(ちょっと例えとしては格好悪いかもしれないが)。よくこんなに自然を美味しそうに生き生きと描けるものだと驚愕させられる。外に出たくなる。アスファルトに囲まれた場所でなくて、もっと大きなものがいる場所に。
 個人的には冒頭のメアリが秘密の花園を見つけるところが好きだ。後半以降は、その秘密が〈魔法〉の力で溢れ、抑えられなくなり、春に新芽が土から押し出されるように、秘密でなくなるときが描かれている。それはそれで好きだし、子どもはいつしか成長するものだし、数ヶ月で見違えるほどの変貌を遂げることはこの作品で描かれているとおりなので異論はない。でもやはり、ひっそりと花園が秘密に守られ息づいていること、そこに閉じこもれば安心を得られるという感覚にこそ、より共感し、没入してしまう。秘密が失われたからといって魔法が失われたわけではなく、むしろその力は強く花開くわけなので、この作品にはこの展開しかなかっただろうと納得していることは申し添えておく。でもきっと小学生のころの私は、『秘密の花園』を読んだとき、「誰にも侵されることのない、ただひとりだけの場所」というイメージに強く引き込まれたのだと思う。当時は、たしかメアリが秘密の花園を見つけた少しあとくらいまで読んで挫折したのだったと記憶している。単純に昔の私には文章が難しくて読めなかったのだが、そのあと「あのとき読み通せなかった『秘密の花園』」について思い出しては「今なら読めるだろうけどこれを読むタイミングは果たして今なのだろうか」という自問に時折さらされることとなった。それほど印象深い本だったのである。十数年の時を経て、最後まで『秘密の花園』を読んで、ようやく「これは今読むべき本だった」と思うことができた。本はこうした出会いがあるので良い。幼少期の自分のためにも、自分だけの秘密の花園を育てたい。「魔法の場所にいて、現実世界から切り離されているのに、現実の間近にいるような感じがする」、そんな場所を人は誰しも持たなくてはならない。

良かった文・シーン
庭のことを考えるときメアリは頭の中で「秘密の花園」と読んだ。その呼び方をメアリは気に入った。それ以上に気に入ったのは、美しい古い塀の内側に閉じこもれば、誰にも居場所はわからないという感覚だった。魔法の場所にいて、現実世界から切り離されているのに、現実の間近にいるような感じがする。
「春の一部さ、この巣作りァ。世界が始まってからずっと、毎年同じふうに続いてきたと請け合う。あっちにァあっちの考え方とやり方があって、出しゃばんねえほうがいい。春ァほかの季節より簡単に友だちなくすからね、好奇心が強すぎると」