タロットの創作への活用

2023-08-24Diary,タロットタロット

 かねてより、創作にタロットカードを使用できないか考えていた。複数の作家がタロットカードをネタ出しに用いているという話は何度か聞いたことがあり(特定の誰なのかは知らないのだが)、私もそれやりたいぜ、なぜならネタが出てこないことは本当に苦痛なので……と思っていた。それで、「タロットを小説制作に用いる方法が書いてある」という本、大塚英志『物語の体操—みるみる小説が書ける6つのレッスン』なども読んでみたのだが、どうも使い勝手が悪い。タロットカードを創作に使うとき、大抵はスプレッドと呼ばれる特定のカード展開方法に「主人公」「テーマ」「動機」などといった物語を作る上で必要となってくるキーワードを対応させ、そこに出たカードから「主人公は『正義』のカードか……曲がったことは許さない熱い人物なのかもしれない」などと連想してアイデアを膨らませていくこととなる。しかし、大抵の創作者にはわかってもらえると思うが、物語というものにはある程度一定の盛り上がりのパターンや外せないお約束などがあり、例えば「この位置に出たカードは物語の『テーマ』として扱ってください」と言われたとて、その位置に出たカードが非常にメッセージを受け取りづらいものだったり、あまりに小さなことであったり、そんな気分じゃないのにネガティブな意味を持ったカードであったとしたら、その時点で辟易としてしまい、アイデアなど膨らみようがないだろう。そこで、そもそもタロットカードに聞くのに不向きな物語の要素というものがあるのではないかと感じた。
 例えば、先程挙げた「テーマ」などはその筆頭で、インターネットで軽くさらって出てくる創作関連のスプレッドには頻出するキーワードであるものの、(テーマというものを先に考えて「よし今回はこれで行こう」と決める人であっても、テーマなんか書いていたらあとからついてくるよという人であっても)そもそもタロットカードから「今回のテーマはこのカードです」と言われること自体が創作のノイズになりうると思う。それはこっちで決めることですんで……という気持ちになりそう。そんなこと言うなら最初からタロットカードなんかに頼るなよ、と突っ込まれそうだが、本記事の趣旨はそのちょうどいい落とし所を探りたいという点にあるのでご了承願いたい。

 とりあえずやってみようということで、下記のようなスプレッドを用意してみた。①〜⑥がカードの展開順である。カードをシャッフルし、1枚ずつこの形に並べていく。今回は比較的シンプルに、①主人公、②味方・援助、③敵・障害、④はじまり、⑤展開、⑥結末、と設定してみた。時計回りに内側、外側と見ていくスプレッドだ。はじまり、展開、結末、という区分けはかなり大雑把だが、これくらいざっくりしていたほうが空隙を埋めやすいのではないかと感じる。そして重要なのが、このスプレッドでは「大アルカナしか使わない」ということだ。なぜかというと、小アルカナは大アルカナに比べて比較的身近な出来事を象徴することもあり、こうした物語の大きな要素に当てはめようとすると読むときに不一致が増えそうだからである。基本的には大アルカナで読み、そしてそこから物語を膨らませるうちに、自ずとテーマや世界観などは見えてくるのではないかと考えた(もちろん、予め「こういう世界観が書きたい」などと決まっている場合もあると思う。そういった、事前に自分の中で漠然とイメージが出来ている要素をタロットカードがわざわざ邪魔してこないようなスプレッドがないか試行錯誤しているとも言える)。

 この、創作スプレッドでカードを配置してみたところ、下記のようになった。

 ①主人公=世界、②味方・援助=運命の車輪、③敵・障害=皇帝、④はじまり=月、⑤展開=隠者、⑥結末=恋人

 ここから、非常に大雑把なストーリーを組み立ててみた。
 望むものは全て手に入れてきた主人公(世界)。やけに運がよく、運の良さだけでここまでやってきた(運命の車輪)。ここは混沌の世界、出口の見えない世界である(月)。そこに「王」と名乗り民を導かんとする存在がある(皇帝)。この存在こそが後に主人公の宿敵となる。主人公は内なる声に耳を傾け、自身の努力により何かを勝ち取りたい、互いに認め会える存在がほしいという願いに自覚的になる(隠者)。「王」との最終決戦で、主人公は「王」に打ち勝つが、それは「王」の敗北を意味しない。互いに認めあった二人はそれぞれの出口へと歩を進める(恋人)
 小アルカナを交えず大アルカナのみで展開した理由がおわかりいただけたと思う。大アルカナはメッセージ性が強いので、出来上がる物語は「大きく」ならざるを得ない。しかし、これだけでは「では、これを基に小説に落とし込んでください」と言われても非常に難しい注文だと感じる。物語の形式にはなっているが、どうも抽象的で、作中何が起こったのかすら判然としない。テーマは「出口」だろうとか、なんとなく世界は荒廃しているっぽいなとか、そうした作品の雰囲気を掴むのをここでやって、もっと細かいところは更にカードを展開して読むと良いのではないか、ということで試してみた(言い忘れていたが、今回のタロットカードの活用においては中編〜長編の小説を制作することを最終目標としている。短編であれば上記のスプレッドだけでも問題ないかもしれない)。

 ブレイク・スナイダー『SAVE THE CATの法則』に登場する、ブレイク・スナイダー・ビート・シートを参考にしている。この進行では、「第一ターニングポイント」「ミッド・ポイント」「心の暗闇」「第二ターニングポイント」が肝となる部分だと感じている。この部分に変なカードが来ると想像を膨らませづらい。ということで、このポジションはどんなカードが来ても自分の良いように解釈してよいこととする(心の暗闇と言っているのに明るいカードが来てしまったとしたら、そのカードのネガティブ面を特に強調して読み取ってみる)。この時点では、小アルカナ含めすべてのカードを使って展開してみる。物語の骨子は出来ているので、そこに詳細を少しずつ詰めていく形だ。

 カードはこのようになった。ここから比較的自由に想像を膨らませていく。

  • まず全体の印象を見ていく。全体的に灰色で、あまり元気な感じじゃなさそう、暗いか硬質な感じの雰囲気で進んでいくような気がする
  • オープニングイメージ ソードのキング
    • 主人公を出さなければならない。明晰な感じ、近づけば斬られてしまうのではないかという雰囲気、主人公の孤独が伝わるエピソードがほしい。主人公の年齢はどれくらい?中年、若者という感じではない。やけに運がよく、努力というものをしたためしがない。収まるべき場所に収まってきたとも言える←ではなぜ旅人として放浪しているのか、ここはあとで考えたい。これだけだと嫌な奴だが人間的にはしっかりしているので人に好かれやすい。自分が運良いかわりに周りは帳尻合わせで不運になるとか?そうすると人を避けて放浪している理由になりうる
    • 世界は何らかの理由で荒廃している。砂漠で物資不足の世界。主人公は一人で旅を続けている。イメージとしては『マッドマックス 怒りのデスロード』
    • 一人称、俺(主人公)、わたし(王)(王らしからぬ王、もうひとりの主人公)、三人称一元視点
  • テーマの提示 ソードの3
    • 前に引き続いて、主人公の孤独が強調される。心に深い悲しみがある。なぜ? 鳥、というキーワード、鳥にまつわるなんらかのやまい?(←これはタロットから得られたアイデアではない、なんとなく連想して出てきたものもこうして書き込んでいく)
  • セットアップ 司祭逆位置
    • 世界観の提示がここで行われる。モラルとかあんまりない世界、荒廃している。主人公はあてもなく彷徨っている。そこに、王の治める国を見つけて立ち寄る。民は病気に侵されている。王はいつか皆助かると民を導く。いつか神の鳥がやってきてみんなを助けてくれると説く。王に心酔する民も多い。鳥になってしまう奇病、どのような鳥か? デカい、二種類いる。走る鳥、ペタ。食べる鳥、ハンツ。どちらも人間と同じくらい大きく、食料として重宝される。野生のペタやハンツと、人間から鳥になってしまったペタやハンツを見分けるのは困難。城壁はあるか?ある。食料は当然配給制。鳥については、家族は鳥になったのではなくいなくなったと信じる派、鳥になってもあの人はあの人だ派、かつては食べていたけど家族が鳥になってからは鳥を食べられなくなった派、など色々な立場がある。ペタになるかハンツになるかは分からない。ペタになるほうが少ない。因果関係は特定されていない。運。この世界では犬や猫を見かけることはあまりなく、身近な生物が鳥。
  • きっかけ ペンタクルの2逆位置
    • 入国するのだと思うが、どんなことになるのかまだイメージが膨らまない。入国した瞬間にトラブルに巻き込まれる。鳥の始末係が鳥になってしまう、とか?←主人公の運の良さが悪い方向に発揮されている
  • 悩みの時 ペンタクルのナイト
    • 王のために民の何かが犠牲にされる、ペタ(走る鳥)の献上。ペタは私の息子だと泣き縋る母親を突き放して連れて行く。ゆったりとした王のパレード。さらにペタがその息子である証拠はどこにもないことを説く。
    • 反感を覚える?主人公
  • 第一ターニングポイント ワンドのキング
    • 王登場。主人公が王を認識する。王にも葛藤があるが、食糧不足のなか鳥になった人間を食べるしかない、そのため鳥は徹底して隔離され、民の前に表れるときには完全に加工されていなければならない。主人公は王に命ぜられつぎの飼育兼始末係になる
  • サブプロット ペンタクルの4逆位置
    • 親しくなった友人に招かれる。財を成す。妻を得る。子どもができる。←主人公の性格的に妻も子供も作りそうになければ、親しくなった友人で代替してもよい、どちらにするか迷う
  • お楽しみ ペンタクルのキング逆位置
    • 思いつかね〜楽しいこと、あるか?妻との暮らしぶりとか、つらいけど温かい人々?ケガレを扱う職業とはいえ街の人々と打ち解ける?
  • ミッドポイント ペンタクルの5逆位置
    • 子どもが鳥になる、皆のために差し出すよう言われる←法律でそう決まっている、死刑
  • 迫りくる悪い奴ら ソードの6
    • 子どもを連れて逃げる
  • すべてを失って カップの3逆位置
    • 王の兵に見つかり、鳥(子ども)は死ぬ
    • 呪われた地
  • 心の暗闇 ソードの2
    • 何もできず子どもを置いて逃げ出す
  • 第二ターニングポイント ペンタクルの9逆位置
    • 国の果てで廃村を見つける、そこで奇病の秘密を知る(水にあった)、みずのかみであるとりから流れ出たいのちの水
    • オアシス、蜃気楼の向こうに水のかみの鳥、羽を落とすとそこが水たまりになり水が湧く、王宮の地下にある泉がまさにそれ。人々はその水で生きながらえてきた、みずのかみは唐突なので、その前にどこかで提示しておきたい、みずのかみを祀るまつりとか(お楽しみに入れておく?)
    • とある医師の手記、奇病を治そうとしたがかなわず、自身も最後には鳥になってしまう
  • フィナーレ ワンドのエース 逆位置
    • 王に直訴する、王は秘密を知っていた、それでもなおこの地で生きていくにはそうせざるを得ないという、王は隙を突いて主人公に水を飲ませようとする、水を飲む賭けをする。←どういうこと? どういう流れでそうなんねん。主人公が無謀過ぎるのでなんらかの策がほしい。水を飲んだ主人公は鳥になってしまうが、ペタでもハンツでもなく伝説の火の鳥に姿を変える←なんで?伏線がほしい、そんなものなくて唐突に火の鳥が登場するのでもいいが。みずのかみであるとりを焼き尽くしてしまう
  • ファイナルイメージ 正義逆位置
    • 水は枯れる、王は民を導いてこの世界の出口を探す、火の鳥は空遥か高くへ飛んでいってしまう
    • ここで終わるのではなく、ここまでを第一ターニングポイントとしても良いのでは。←すべてを覆す発言

 ……あとは、適宜何か継ぎ足しながら細かい部分は頭を捻って考えるほかない。結局、最後は飛躍に頼るしかないのだ。例えば上記の例では「鳥のやまい?」というキーワードが途中で登場する。これはタロットカードから読み取ったものではないが、物語の重要なキーワードになりそうだ(もしかしたらカラスのタロットカードを使用したからそんな連想が飛び出てきたのかもしれないが)。途中、「これは別にカードと対応していないのでは」と感じた部分が出てきても、カードに従うか、自分の直感に従い話を進めてみるかは個別に判断していい。上記の例では「きっかけ」に「ペンタクルの2」が逆位置で出ているが、「入国してトラブルに巻き込まれる」という要素がどの程度「ペンタクルの2」らしさを有しているかという点については、最終的な目的を鑑みてあまり厳密に検討する必要はない。最終的に面白い作品が出来上がるならなんでもいいのだ。また、今回は最後までメモ書きをしてみた時点で「ここで終わる作品にするのではなく、ここまでを第一ターニングポイントとしても良いのでは」というアイデアが浮かんだので、その場合は再び「サブプロット〜ファイナルイメージ」まででカードを引き直し、アイデアの補助とすることもできる。おそらくこの話はここで終わらずに新たな展開を得て進んでいく可能性が高い。このように柔軟にやりながら、なんとかプロットを詰めていく。

 最後に。これは現在、私、藤井佯がリアルタイムで制作中の物語のプロットである。首尾よく完成したら、この作品は文芸同人サークル・造鳩會が発行する文芸誌『異界觀相vol.3 どうしてこうなった?』(文学フリマ東京37にて販売予定)に掲載されるだろう。これを書いている時点で進捗が全く芳しくないが、この後とにかくがんばることにして、自分を鼓舞し追い詰めるため、今回の制作プロセスを立ち上がり部分だけ記録しておくことにした。ここまで書いておいて『異界觀相vol.3』に全く別の話が載っていたら笑ってください。あと、なんかアドバイスあるひとはください。なんもないひとは応援してください。何か進捗があったら追記します。よろしくお願いします。