九螺ささら『ゆめのほとり鳥』感想
九螺ささら『ゆめのほとり鳥』(書肆侃侃房)
http://www.kankanbou.com/books/tanka/shinei/0327
読み始め:2023/7/30 読み終わり:2023/8/2
あらすじ・概要どうしてこんなことを思いつけるのだろう。
驚嘆しつつ、圧倒されつつ、混乱しながら納得してしまう。
そこに真実が宿っている気がしてならない。
(東 直子)
読んだきっかけ
ずっと昔に買っていて、本棚に眠っていた。途中まで読んでいたらしいが引っ張り出してきたのを機に最後まで読むことにした。
コメント・感想
よかった。装画もかわいい。冒頭の「気配、またはあの世の手触り」のパワーが強く、たくさん付箋を貼っている。本を読んでいると、途中に「ただただ美しい—— 『「ホーキング、死去」に違和感あの方は 唯一ワープで「ここ」を去れる人』」と書かれた色画用紙の切れ端が挟まっていて、全く記憶になかったので驚いた。きっとどこかでこの本をポップつきで紹介することがあったのかもしれない。
「鮫肌の何かがベッドに潜り込み産卵をして帰った気配」。産卵という言葉と「かえった」(孵った)という言葉の響きが気持ち良い。鮫肌というのも絶妙に良くて、結局何かは分からないんだけど、鮫肌っぽいと判断できる何かがあったのだろう。もう卵を産んだ主は去っているはずなのだから。それに、わざわざベッドに潜り込んでいるところに暗がりや柔らかく温かいものを欲する野生を感じて嬉しい。リズムも「ベッドに」で一瞬引っかかる感じがあってそれが快であるし、「気配」と体言で終わるところも好きだ。
良かった歌
「気配、またはあの世の手触り」
・あくびした人から順に西方の浄土のような睡蓮になる
・雪の降る砂漠にほかほかの駱駝この世の最後の生物のごとく
・窓口に向かってクチバシを突き出し「すべての鳥を解放しなさい」
・インコのようなものが舞い降りてきてずっといるからずっと撫でてる
「シナモンロールという思想」
・離陸したとたんはらぺこになったから空中にて鳥の肉を頼む
「舟と浮力と」
・恋人のささくれの中指をしゃぶるそこから魚にならないように
「春先の17ヘクトパスカルの気圧」
・鮫肌の何かがベッドに潜り込み産卵をして帰った気配
・畳まれた浮き輪はたぶん比喩でしょう頑張れないまま死ぬことだかの
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