田村隆一『腐敗性物質』感想

DiaryC0192,書籍感想

田村隆一『腐敗性物質』(講談社文芸文庫)

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000168368

読み始め:2023/8/2  読み終わり:2023/8/2

あらすじ・概要
《一篇の詩が生れるためには、/われわれは殺さなければならない/多くのものを殺さなければならない/多くの愛するものを射殺し、暗殺し、毒殺するのだ》(「四千の日と夜」)現代文明への鋭い危機意識を23の詩に結晶化させて戦後の出発を告げた第一詩集『四千の日と夜』完全収録。『言葉のない世界』『奴隷の歓び』表題詩「腐敗性物質」他戦後詩を代表する詩人田村隆一の文庫版自撰詩集。

読んだきっかけ
おすすめしていただいた。

コメント・感想
 垂直性とは一体なんなんでしょうか。一読しただけでは言葉にできるほどのものとしては理解できなかった。しかしマグマな感じを受けた。とてつもなく硬く、流紋岩である。しかし目を離した隙に溶解してしまうのではないかという緊張感がある。戦後を感じる詩が多い、田村隆一が生きた時代を考えれば当然ではある。
 鳥が頻繁に登場した。多くは死と結び付けられているようだ。か弱いものとしても登場する。後期の作品では、ユーモラスな鳴き声を伴って登場するが、どうしても私にはそれが血が通っているようには見受けられない(星月夜)。別に悪い意味ではなく。
 複数の詩集を通しで読むということがこの本のおかげで実現されているわけだが、そうすると似たようなモチーフや同じ体験が別の詩のなかで頻繁に繰り返されていることがわかる。それだけ田村隆一にとって重要なものだったのだなとわかり面白い。
 それにしても詩を引用するのってなんて難しいのだろうか。良かった詩をいくつか挙げるが全文挙げるわけにもいかない。真剣に取り組まざるを得ない。

良かった文・シーン
その人は黒衣をきて私の戸口を過ぎる 冬の皇帝 淋しい私の皇帝! 白皙の額に文明の影をうつし欧州の墓地まで歩いて行く 太陽を背中に浴びて あなたの自己処罰はいたいたしい(『四千の日と夜』より「皇帝」)

一羽の鳥
 たとえば犬鷲は
 あのゆるやかな旋回のうちに
 観察するが批評しない
 なぜそのとき
 エネルギーの諸形態を観察だけしかしないのか
 なぜそのとき
 あらゆる色彩とリズムを批評しようとしないのか
(『言葉のない世界』より「言葉のない世界」)

それは
 血のリズムもなければ
 心の凍るような詩のリズムでもない

 ある渦動状のもの
 あまりに流動的で不定形なもの
 なにか本質的に邪悪なもの
(『緑の思想』より「緑の思想」)