カーレン・ブリクセン『運命綺譚』感想

DiaryC0197,書籍感想,短編感想

カーレン・ブリクセン『運命綺譚』(ちくま文庫)

https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480031938/

読み始め:2023/1/2  読み終わり:2023/1/2

あらすじ・概要
空を飛べなかった神学生は、海と魚の世界に幸福を見出して真珠採りになり(「水くぐる人」)、旅廻り一座のマリは船主の息子と恋に落ちるが、孤独な天職に戻り(「あらし」)、カントンの大富豪は物語を実現しようとして失敗し(「不滅の物語」)、羊泥棒にでくわした新妻は、すべてが変わってしまう。人間のさまざまな運命を結晶させた物語集。物語を読むことは自己発見の旅なのだ。「水くぐる人」と「あらし」は本邦初訳。

読んだきっかけ
マストドンのFFが読んでいて興味をそそられたため。

コメント・感想
 初めは図書館で借りたのだが、あまりにも良かったので手元に置いておきたくて中古で購入した。「あらし」が好きだが、あとから「水くぐる人」の余韻がじわりと迫ってくる。これが語りか……と打ちのめされる。感想記事を書いておいて何を言い出すんだという感じだが、上手く感想が出てこない。ただ、良いものを読んだ……という静かな感動が心の内にあるだけで。下記に引用した段落があまりにも美しく、読んだとき呼吸がとまった。「あらし」はずっと途切れることのない流れがあるので一部を抜き出すのが大変なのだが、「水くぐる人」で格別に完成された段落はここだと思う。これは影響を受けないほうが難しい。

良かった文・シーン
わたしたち魚族は、四方八方から抱き支えられていて、水中ではすっかり安心して、むつまやかに休らっています。上下左右どの方向にも動けますし、どの道を行こうと、力強い水がわたしたちの価値を認めて、魚の形に応じて変身してくれます。ですから、自分たちが昇っているのか沈んでいるのかも全然知らず、いつもすっかり安定しているのです。(p.27「水くぐる人」)