オカモトレイコ『地獄動物考』感想

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オカモトレイコ『地獄動物考』

https://www.suz-design.org/beasts-in-the-naraka(画像はリンク先から引用)

読み始め:2023/6/19  読み終わり:2023/6/19

あらすじ・概要
地獄に棲む動物7種について書いたイラストエッセイ集。
国宝『地獄草紙』に描かれた「鶏地獄」を見たときに浮かんだ「なぜ地獄に鶏がいるのか?」という疑問から地獄について調べたところ、意外にも多くの動物が描かれていることを知りました。元々人と動物との関係性について興味があり、それらの動物が地獄に描かれた理由を調べることは古代から現代の人の動物観を知る手がかりになると思い、さまざま文献や自分の経験などを基にまとめた見解をエッセイとして動物ごとに7種の冊子にまとめました。

読んだきっかけ
文フリで購入。カタログで見て気になっていたので。

コメント・感想
 素晴らしかった。装幀へのこだわりがすごい。まず、七冊のZINEが、石のような質感の紙箱に詰められている、その段階でわくわくが止まらない。ZINE一冊一冊は袋とじ製法になっていて、折り目部分にロゴが入っているのが美しい。また、遊び紙は七種ごとに色が異なっていて、それぞれの動物のイメージカラーとして見ることができて楽しかった。挿絵は色紙にリソグラフで印刷され、それが一枚一枚貼り付けられている。この手作り感(一方で洗練された雰囲気はまるきり損なわれていない)がZINEならではで素晴らしい。七冊のZINEを補完するように、一枚のペーパーも折り込まれていて、そちらに筆者の制作の動機や、地獄にまつわる概説が記載されており嬉しい。すべてのデザインがいちいち美しくてため息が出そうになる……。
 内容も非常によく調べられている。人間に身近な存在でありながら、我々に畏怖の念を抱かせる動物たち。彼らがどんな経緯で「地獄」に描かれることになったのか、多数の文献から考察されている。それぞれ、犬、牛、馬、象、烏、鶏、蛇の七種。個人的にはやはり、鳥好きなので烏や鶏の記述に惹かれる。私も趣味で鳥の神話について調べているのだが、参考文献に読んだことのある書籍名を見つけると嬉しくなった。一方で、自分だけではたどり着かなかったであろう分野の話(ここでは例えば、鶏の飼育方法や闘鶏にまつわる詳細など、鳥と人との関わりの中で問題とされているようなトピックについて私は見落としがちだと気づいた)についても触れられており、自身の興味の幅の狭さを反省することもあった。その他では、犬の習性による「かつては木の枝ではなく道端に落ちている死体の一部を持ち帰ってきていた」という行動と、それに振り回される貴族たちの話が面白かった。
 (文フリ当日は、私が購入したもので売り切れてしまったため)増刷されるのかどうかは存じ上げないが、もし入手できる機会があったとして、地獄や動物、人間の文化、民俗学などに少しでも興味がある方にはぜひおすすめしたい。