三浦しをん『舟を編む』感想

2023-02-21DiaryC0193,書籍感想,長編感想

三浦しをん『舟を編む』(光文社文庫)

公式サイトから引用

https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334768805

読み始め:2023/2/18  読み終わり:2023/2/21

あらすじ・概要
出版社の営業部員・馬締光也は、言葉への鋭いセンスを買われ、辞書編集部に引き抜かれた。新しい辞書『大渡海』の完成に向け、彼と編集部の面々の長い長い旅が始まる。定年間近のベテラン編集者。日本語研究に人生を捧げる老学者。辞書作りに情熱を持ち始める同僚たち。そして馬締がついに出会った運命の女性。不器用な人々の思いが胸を打つ本屋大賞受賞作!

読んだきっかけ
Kindleアプリに入っていた。何年前かに買って読まずに放置されていたものと思われる。たまたま、国語辞典を買わなければなあと思っていたときで、読み始めることにした。

コメント・感想
—–読了する前の感想メモ—–
・展開が早い。最初回想から始めるのに驚いたが、たしかに馬締のキャラクターを考えると引っ張ってどんと出してきたほうが印象深くなるなと思い納得した
・会話が下品になりすぎない一定のラインを保っていて安心して読める
・馬締が辞書作りに前のめりなことへのきっかけがあんまり書かれていなくて唐突感があった。いきなり異動させられ、たしかに性分にはあっていたかもしれないが、ここまで必死になれるものなのか。「編集部のひとと仲良くなりたいのね」というおばあさんの言葉は、なるほどなあと思ったが、そこに至るまでの馬締の心情がすっ飛ばされている気がする。
—-ここから読了しての感想—–
・展開がうまい。読み終わったあと呆然としちゃった。最初からぐいぐい読ませるのに、西岡の視点になったあたりからさらに面白さが加速する。この、章ごとに視点を切り替えるのすごいよかったなと思った。西岡によって第一部が終わり、岸辺みどりによって第二部が始まる。ここのワクワク感といったら。ド直球のお仕事小説ってやっぱいいもんですね。私は会社勤め向いてない人間だけど、自己実現するということに対してはかなりマッチョな自覚があるので刺さるんだと思う。一方で、やっぱり大多数が共感できるのは西岡や岸辺だと思う(私も読んでて泣きそうになっちゃった)し、馬締の話を告白で一段落させて、一部のクライマックスを西岡の視点で持ってきたのは流石だなと感服した。
・やっぱり説明しすぎだなと感じるところはところどころあったんだけど、これは正直個人の好みの話な気がするし、ここまで説明したほうが人気が出るのかもしれない。こればかりは分からない。舟を編むはドラマになっていた記憶があるけど、どうやって構成し直したんだろうと気になった。
・起こる出来事って、「辞書の企画が始まって、実際に発売される」ということで、読者もそんなこと分かってるのに引き込まれる。もう見ていて誰が誰とくっつくのかもわかるし、このあたりで事件が起きるんでしょう? というのもぜんぶ予想通りなのになんでこんなにおもしろいかね。ほんとやんなっちゃうね。
・岸辺みどりを中盤で出してきたのすごいなと思った。本来なら冒頭にああいうキャラを持ってきちゃう気がするけど、確かにこの構成しかなかったなと思わせられる。冒頭がいきなり回想から始まって驚いたと読み途中にメモをしていたが、この話は荒木→馬締→岸辺のバトンリレーなので、荒木さんの回想から始まるのが完全に正解だったなと思う。正確には馬締→岸辺は予感されているだけで物語の中では語られないけれど。
・すごい細かいけど、松本先生の年をちゃんと一文書いておくの、エンタメだなと思った。正直、年なんて書かなくても物語としては何ら支障はないと思うが、そういう細かいところで読者をもやっとさせて没入感を損なわせないぞという気概を感じる。