芦原すなお『ミミズクとオリーブ』感想

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芦原すなお『ミミズクとオリーブ』(創元推理文庫)

Amazonから引用

http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488430016

読み始め:2023/2/20  読み終わり:2023/2/21

あらすじ・概要
美味しい郷土料理を給仕しながら、夫の友人が持ち込んだ問題を次々と解決してしまう新しい型の安楽椅子探偵――八王子の郊外に住む作家の奥さんが、その名探偵だ。優れた人間観察から生まれる名推理、それに勝るとも劣らない、美味しそうな手料理の数数。随所に語り口の見事さがうかがえる、『青春デンデケデケデケ』直木賞受賞作家の筆の冴え。解説=加納朋子

読んだきっかけ
安楽椅子探偵ものでおすすめしていただいた。

コメント・感想
 ミミズクが登場するのは表題作だけかと思ったら、全編にわたって言及されたり登場したりするので鳥好きには嬉しかった。ミステリをほとんど読んだことがないので、トリックや事件の顛末についての巧拙はよくわからない。「へー」と思いながら最後まで読んだ。ただ、テーマが夫婦関係なのもあってかちょっとどろどろとした話が多く、個人的にはあまり得意ではなかった。特に二番目の話とか。ここまで読んで「あーあんまり好みじゃないかも〜」と思いながらとりあえず最後まで読み進めたところ、主人公と妻が出会ったきっかけの話なんかは面白く読めた。
 しかし、時代の流れですねと思ったのは「女の勘」がやたら強調されるところ。今ではもう、こうは書けないだろう。「神秘性な女性」と事件に関連するような欲にまみれた女の対比も今の感覚では受け入れがたいなと思った。ただし、これは作品のテーマに関わってくるところだろうから、簡単に良し悪しを語れはしないのだけれど。妻(過去では「お嬢さん」)の名前が明かされないのも気になる。私の見落としでなければ、彼女は名前をふせられたまま属性でしか語られていないのだが、さすがにこれは作者の意図的なものであってほしい。出てくる料理も面倒なものばかり。突然夫の来客があっても、突然魚を持ってこられて面倒な料理を頼まれても嫌な顔ひとつせず引き受ける、半ば趣味で着物の仕立てをしている、病気になると必要以上に申し訳無さそうにする。どんな完璧な奥方だよと思ってしまうわけですが、このあたりは「家庭的な妻が実は名探偵だった」というギャップを引き立たせるために盛られた属性なのだろうと、思いたい……。そうだからといって、「not for me」という気持ちは変わらないのだけど。
 あと、主人公が本当にうるさい。ここにハマれる人とそうでない人の分かれ目があると思う。妻の手足となって現場検証する手腕は見事なのだけど、会話になると本当に鬱陶しいので黙ってほしい。私には合わなかった。でも、本の中の人物に「マジで鬱陶しいなこいつ」と本気で思うことってなかなかないわけで、そういう意味では貴重な体験だった。
 「さつま」は実際に食べてみたくなったのと、歯医者のくだりはとても良かった。

良かった文・シーン
五月の午前の陽光を浴びて如雨露の水がことのほか美しく輝く。こんな季節は、植木屋さんは楽しいだろうなと思う。(p.156)