朱野帰子『急な「売れ」に備える作家のためのサバイバル読本』感想

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朱野帰子『急な「売れ」に備える作家のためのサバイバル読本』

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読み始め:2023/6/23  読み終わり:2023/6/23

あらすじ・概要
直木賞を受賞すると三年余命が縮まる。 そんな研究結果があることを知っていますか? 急に売れてしまった作家はストレスフルな変化を迫られ、ときに危険な状況に陥ります。どのようにサバイブしたらいいのかを本書ではお伝えしていきます。 第1章では、急な「売れ」がきた作家がこなすことになる超人的な仕事量を、メディアミックスが行われた場合の例を通じてお伝えします。 第2章では、急な「売れ」がくる前に準備したい備えを挙げました。売れる前から備えておくことをおすすめしています。 第3章と第4章では、急な「売れ」がきたあとに作家がメルトダウンしてしまう現象について、なぜ起こるのか、どう立ち直っていったかを、著者の体験を通じてお伝えします。
対象読者
・急に売れてしまってへとへとになっている作家
・これから売れたいと思っている作家
・売れた作家をサポートする立場の人
・労働問題に興味がある人

読んだきっかけ
急な「売れ」に備えるため。

コメント・感想
 実体験だから当然なのだが、忙しさの解像度が高くヒェッ……と思った。挙げられている「発生した仕事の一覧」はどれも本が売れたら(メディアミックス化されたら)確かに発生するイベントだし、そのイベントに伴って発生する雑事だな、と納得できるのだが、それが積もって山になると……本当に大変なことになる。筆者は、決してメンタルもフィジカルも弱くない方であるように見受けられるので、余計に恐ろしい。アドバイスは、「生活支援体制をつくろう」「税理士を見つけておこう」「取材・出演依頼の対応方針を決めよう」など非常に実践的。さらに、「売れ」により引き起こされたメルトダウンからどのように筆者が生還した(しつつある)のかについても章を一つ分割いて詳しく語られる。様々な職場を舞台にした小説を書かれている方だからなのか、引用されている文献も労働問題や経済学関連の書籍が多く、そこに特色を感じて個人的には興味深かった(のっけから大竹先生の論文引用から始まるし)。
 個人的な話だが、いま公募に送ろうとしている小説が書けなくなっていて、どうしたものかと悩んだ挙句「自分ひとりのための小説」を書き始めたところだ。ちょうど「必ず回復すると信じよう」の項に、書けなくなった著者に対して、青木祐子氏が「私はスランプになると、趣味の小説を書く」と答えた場面があり、誰かに見せるでもなく自分のためだけに書くということはプロでもやっていることなのだなと、なんだかとても心が軽くなった。まだデビューすらしていないただのワナビだが、いつか作家になり、作家として生き残るために、いまからでも本書を購入したのは慧眼だったと思う。