大沢在昌『小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない』感想

DiaryC0195,書籍感想

大沢在昌『小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない』(角川文庫)

公式サイトより引用

https://www.kadokawa.co.jp/product/321809000167/

読み始め:2023/2/18  読み終わり:2023/2/18

あらすじ・概要
現役編集長が「作家デビューの実際」について語った特別講義収録で、現状分析に最適!

エンタメ小説界のトップを走り続ける著者が、作家になるために必要な技術と生き方のすべてを公開。
十二人の受講生の作品を題材に、一人称の書き方やキャラクターの作り方、描写のコツなど小説の技術を指南。さらにデビューの方法やデビュー後の心得までを伝授する。
文庫版特別講義ではweb小説やライトノベルを含めた今の小説界を総括。いかにデビューし、生き残っていくかを語り尽くす。
エンタメ系小説講座の決定版!

読んだきっかけ
吉田親司『作家で億は稼げません』で紹介されていたから。

コメント・感想
 今まで読んだ創作指南本で一番参考になった。プロ歴三十年以上の先輩の言葉はどれも重く、紙にしがみつくようにして読んだ。本当なら、特に印象深かったアドバイスを列挙してまとめておこうかと思ったのだが、あまりに数が多いのでやめた。そんなことをするくらいなら何度も読み返したほうが良い。文庫版のみ収録されている、新人賞を担当する編集者との座談会からしてもう面白い。大沢さんがバシバシ編集者に突っ込んでくれるので読んでいて痛快でもある。「泣いても笑っても三作目が勝負」というシビアな話が編集者からも上がってきて、やっぱそうなのかあと思う。野性時代フロンティア文学賞(現在では小説野生時代新人賞)の編集者が「一般文芸の場合、シリーズ化についてはあまり重視していなくて、それよりも他社からどれだけ声がかかるかということのほうが重要」と語っていて興味深かった。主要新人賞リストまで載っていて親切。大沢さんが「一般のエンターテイメント小説で『偏差値の高い』新人賞は?」という質問に「今なら、小説すばる新人賞かな」と回答していてウケた。そこは野生時代ちゃうんかい。また、新人賞への挑戦は三回から五回くらい、新人賞を受賞するまでに五回というのは多い、と書かれてあってますます気を引き締め状態に。受賞してからが本番ということ、どのようにプロのなかで生き残っていくか、という話が主題なので当然といえば当然。
 全く自分が思いもよらなかったのが「自分より年上の読者を想定しろ」というアドバイス。同世代と年下の読者しか想定していなかったことを初めて自覚して戸惑った。そういえばそうだ。「老人が、自分と同じような老人が活躍する物語を見たいかと言われると決してそうではなく、若いヒーローやヒロインの活躍を見たいものである」といったことが書かれていて、なんでこんな簡単なことに私は気づかなかったんだ!? と愕然とした。
 「直木賞を獲れ!」からの「直木賞ぐらいでおたおたするな」という話もよかった。いつまでも先があると思って書くこと、一冊一冊が勝負でこれが売れなければ次はないという気持ちで挑まねばならないこと。そうした心持ちの話ばかりでなく、「パーティーにでろ」「先生と絶対呼ばすな」「専業の方が必死なのでぶっちゃけ作品の質が上がる」など実践的なアドバイスも多い。やはり今の私に一番刺さったアドバイスは「とにかく本を読め」というもの。作家になるまでは毎年五百〜千冊読んでいたと書かれているし、「プロになれば忙しいんだから本を読める時間は減る」という現実も合わせて提示されては、焦らないほうがどうかしている。本当に恥ずかしくなった。本を読め、という当たり前だが実行する人間が少ないであろうアドバイスはクーンツの『ベストセラー小説の書き方』にも書かれていた。重く受け止め、最低でも自分の応募する賞の受賞作、直木賞受賞作(少なくとも2000年くらいまでのもの)、吉川英治文学新人賞受賞作を読んでいくことを誓う。
 また、「デビューしてしまうと後がない」という話があり、これは最近よく考えていることだったので重く響いた。三年以内にデビューしたいのだが、今すぐにデビューさせられたとしても、自分にやっていける実力がついているとは到底思えない。やはりこの三年間でじっくり腕を磨いて新人賞受賞が理想だ。応募する新人賞の選定もやり直す必要があるなと感じた。やり直す、というか今のスケジュールに小説すばる新人賞を加えるだけなのだが。ライト文芸と一般文芸、どちらでデビューするか正直悩んでいたのだが、自分の好きになれんもんは書けんわなと吹っ切れたので、ライト文芸の長編の賞に応募するのはやめておこうと思った。
 「ライバルを作れ」というアドバイスのなかに北方謙三とのほっこりエピソードが挿入されるなど、「もうこれ読んで大沢在昌という人間を嫌いになるのは無理だろ」と思わされるような内容なのも楽しい。いま付箋を手元に切らしていたことに心底後悔している。本来なら読み始めて即、一旦中断して最寄りの百均に向かうべきだったのだ。