【ネタバレあり】大木芙沙子『二十七番目の月』感想

Diaryかぐプラ,短編感想

大木芙沙子『二十七番目の月』(KAGUYA Planet)

公式サイトより引用

https://virtualgorillaplus.com/stories/nijunanabanmenotsuki/

読み始め:2023/2/8  読み終わり:2023/2/8

読んだきっかけ
周囲の人たちが軒並み絶賛していたから。

コメント・感想
 すごいよかった……。主人公から役所勤めの女性に視点が変わるところが特に好き。このシーン、視点の流れがとてもスムーズでドラマのワンシーンのように再生された。エチオピアの二十七番目の月ってチョイスが特によくて、書きながら誰が何の担当(何が誰の、かもしれないけど)か考えるのものすごく楽しかっただろうなあとか、そういうところでもワクワクできるのが良い。私だったら何がいいかなぁ。
 自分の「担当」に一度でも会いに行く旅をする人はこの世界にはどれほど存在するのだろう……と読み終えた後に想像が膨らむ。会わずに死んでいくことを選ぶ人ももちろんいて、そのそれぞれに「担当」があって。サラ・ピンスカーの「一筋に伸びる二車線のハイウェイ」を読んだときにも思ったけど、私はこういう話がとても好みなのだと思う。自分と遠く離れたどこかに、自分と確かに繋がっていて、でも自分の身の回りからの影響は直接受けることがなくて、ただそこにあるだけ、そういったものが存在するのだという救い。今日から世界のどこかと自分の一部が繋がっているつもりで生きてみようかな、それはきっととても豊かなことだから。本当に良い短編だなと思う。

良かった文・シーン
恋人の鈴が鳴るような笑い声を聞きながら、うすい唇にふれながら、おわん型の乳房に顔をうずめながら、今自分が抱いているのは、あたたかくてやわらかな身体を担当しているグリーンランドの氷なのだという思いがいつもあった。それもふくめて愛しいと思った。幸運だと思った。ワルグラの砂が、グリーンランドの氷に出会うことができるだなんて。同時にひどくさびしかった。そうだとしたら、私たちは本当の姿で愛しあうことはぜったいにできないから。

なんて美しい文章なんだ……