『絶縁』アンソロジー感想
著/村田沙耶香 著/アルフィアン・サアット 著/ハオ・ジンファン 著/ウィワット・ルートウィワットウォンサー 著/韓 麗珠 著/ラシャムジャ 著/グエン・ゴック・トゥ 著/連 明偉 著/チョン・セラン 訳/藤井 光 訳/大久保洋子 訳/福冨 渉 訳/及川 茜 訳/星 泉 訳/野平宗弘 訳/吉川 凪『絶縁』(小学館)
https://www.shogakukan.co.jp/books/09356745
読み始め:2023/1/2 読み終わり:2023/1/2
あらすじ・概要奇跡のアンソロジー、日韓同時刊行!
突如若者に舞い降りた「無」ブーム。世界各地に「無街」が建設され――。(村田沙耶香「無」)
夫がさりげなく口にした同級生の名前、妻は何かを感じとった。(アルフィアン・サアット「妻」/藤井光・訳)
ポジティブシティでは、人間の感情とともに建物が色を変える。(ハオ・ジンファン「ポジティブレンガ」/大久保洋子・訳)
先鋭化する民主化運動の傍らで生きる「あなた」たちの物語。(ウィワット・ルートウィワットウォンサー「燃える」/福冨渉・訳)
都市に走った亀裂、浸透する秘密警察、押し黙る人びと。(韓麗珠「秘密警察」/及川茜・訳)
ブラック職場を去ることにした僕。頭を過るのは死んだ幼馴染の言葉だった。(ラシャムジャ「穴の中には雪蓮花が咲いている」/星泉・訳)
家族の「縁」から逃れることを望んできた母が、死を目前にして思うこと。(グエン・ゴック・トゥ「逃避」/野平宗弘・訳)
3人の少年には卓球の練習後に集う、秘密の場所がある。(連明偉「シェリスおばさんのアフタヌーンティー/及川茜・訳)
6人の放送作家に手を出した男への処罰は不当か否か。(チョン・セラン「絶縁」/吉川凪・訳)
読んだきっかけ
個人的にタイムリーなテーマだった。村田沙耶香の短編が読みたかったしアンソロジーのコンセプトが良いと感じたから。
コメント・感想
2022年の年の暮れにAmazonで注文していたが、別の家のポストに誤配送され届いたのは大晦日だった。Amazonから再配達してもらったのではなく、誤配送された側の住人が私の家のポストに入れ直してくれていた。年末はちょっと色々あって全く眠れなくなっていたから、1月2日の深夜から読みはじめて、朝の6時くらいまでひたすら読みふけっていた記憶がある。結果的に、徹夜で一気に読み通すのは正解だったような気もする。村田沙耶香「無」がやっぱり一番好き。他に強く印象に残ったのは、連明偉「シェリスおばさんのアフタヌーンティー」、ウィワット・ルートウィワットウォンサー「燃える」。村田沙耶香すごすぎる。この短編マジで人に勧めたいのだが、どう勧めて良いものか迷うことも事実。三人の女性がそれぞれ語り手として物語が進行していくのだが、三人ともに共感できるのですごい。いや、共感とも違うな。考えていることが理解できる。共感はできるところとできないところがある。一番理解できるのは琴音、次に美代。誰しも少しは考えたことがありそうなことを、無ブームなんていう荒唐無稽な設定でここまで鮮やかに書けてしまうのか……と圧倒される。それとともに、私はどちらかというと純文学寄りの人間ではないな、と理解した。なんというかこれは、濃度の問題で。私にはここまで踏み込んで書けない、悔しくもそう感じた。
「シェリスおばさんのアフタヌーンティー」には、三人の少年が登場するのだが、彼らはそれぞれ人種も立場も国籍も違っていて、それぞれがそれぞれに差別発言をしたり、真正面から衝突したりする。こちらを肉ごと抉って傷つけようとしてくるような表現に不思議と癒やされた。とにかく衝撃的だった。微妙な外交関係が子どもたちの付き合いにも影響を及ぼすなど、舞台設定と登場人物それぞれの性格、属性の配置の妙が光っていて参考になる。「燃える」は、一本映画を見たかのよう。タイを取り巻く状況も、寡聞にしてこの短編を読んではじめて知った。また、終始二人称で書かれていたことも強く印象に残っている(「あなた」が誰を指すのかは何度か変化する)。特に気に入ったのはこの三作だが、その他の作品もどれも面白くて、真面目に「これが今のアジア最先端の作家たちなのか……」と感じ入った。個人的に抜群のタイミングで読むことができたと思う。あと、カバーがキラキラホログラムでかわいいです。
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