辻村深月『かがみの孤城』感想

DiaryC0093,書籍感想,長編感想

辻村深月『かがみの孤城』(ポプラ社)

公式サイトから引用

https://www.poplar.co.jp/pr/kagami/

読み始め:2023/3/3  読み終わり:2023/3/4

あらすじ・概要
あなたを、助けたい。
学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――
なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。

読んだきっかけ
本屋大賞で歴代最高得点を取っていたので。

コメント・感想
 ごめんなさい。全く良さがわかりませんでした。読むタイミングだったのかもしれません。小中学生のころに辻村作品に出会っていたらあるいは、と思わないでもないです。本屋大賞歴代最高得点、しかもぶっちぎりで。どうして? と思い手に取ったのですが、最終的に「私は一般的に面白いとされているものを理解できないのかもしれない、そうだったらどうしよう……」と動揺する結果となってしまいました。Kindleで読んだのですが、70%ほど読んで「まだ面白くならないな……」、95%ほど読んで「ようやくだな」、97%くらいで「予想通りだな」、99%くらいで「そりゃそうなるわな」……と気づいたら、読了していました。意外性は特になく、理音関連のネタバレも予想通りでした。ラストで驚けなかったので、この作品にハマれなかったのは至極当然かもしれません。そして、まあ全員ガキだから仕方ないかとは思いつつ、各々の登場人物の身勝手さが気に入りませんでした。これは愚痴なのですが、理音の姉の身勝手さはともかく、呼ばれた七人が終始誰も「オオカミさま」の身を案じないままで終わったのでびっくりしました。てっきり、次第に城の謎を解き、精神的に七人が成長し、少女を助ける王道の物語なのかと思って読み始めたので、悪い意味で期待を裏切られました。ロジックの部分がある程度すっきりしていないと嫌な性分なので、「17時を過ぎたらオオカミに食われる」というのが本当にそのままの意味で、なぜそうなっているのかもわからず、全く説明のないまま終わったことなどに消化不良を感じました。舞台に無理やり人物の造形や設定を合わせているというか、都合の良い部分だけ切り取って使っている感じがしました。性格の悪い人物描写はピカイチなのに、人物が完全にストーリーの都合の良い駒でしかないというアンバランスさが、おそらく私がこの作家の作品と合わない部分なのだと思います。とにかくこれで、辻村作品は私には合わないのだろうなと諦めがつきました(この作家の作品を読むのは『スロウハイツの神様』を合わせて二度目なのですが、どちらも合いませんでした。たまたまどちらも合わない作品で、たまたまどちらも「社会生活から爪弾きになっている者同士が寄り集まるアジール的空間」ものだっただけかもしれませんが)。
 視点人物であるこころの視野が狭いので上手く感情移入できなかったのですが、中学生ならこんなものだよなというリアルさはあり、そこはやっぱり上手いなと思いました。また、母親とのやりとりや女子同士の会話の嫌な感じの再現度が高いですね。本当に嫌な気持ちになりました。そして、女子は特にそうでもないのに、男子側は「いかにもいじめられそう」な属性をつけられているのも気になりました。本当に「性格の悪い女性が、性格の悪い女性に向けて書きました」という小説だと思います。それが悪いと言いたいわけではありませんが。
 アキの境遇だけとりわけ重いこと、アキに浴びせられる「生きて」「逃げないで」コール、そして将来はそういう境遇の子どもを救う人間になるという点がとにかく厳しい。良い話のように書かれていますが本当にそうでしょうか。グロテスクでした。誰も責任を持てないことが、結果として上手くいったというだけで、無責任で身勝手な話であることに変わりはないなと思います。もちろん、その偶然性を愛するという話なのかもしれませんが、物語に偶然はないので、意図してこう描かれているわけで、そうするとやっぱりグロいなという感想に落ち着くわけです。
 真田のような、そして担任のような人間をこころと東条さんで馬鹿にするシーンがあり、よく書けるなー勇気あるなと思いました。真田サイドの人間も読者には含まれているでしょうに、喜多嶋先生の言葉で雑に言及しただけでろくにフォローもできてないですし。「こころ側の人間のために書かれた本ですよ、それ以外の読者のことはあんまり考えていません」というメッセージが終始一貫しています。私もどちらかといえば、こころ側の人間ですが、ちょっと引きました。性格が悪いというか、読んでいて嫌な気分になるシーンが多かったです。それが楽しくて読んでいる人もいるのかもしれませんね。

印象に残った文章・シーン
そのくせ、千葉でやっているその人のスポーツショップが甲子園に行った地元の高校の選手たちの御用達なんだという話を、親族の集まりで繰り返し繰り返し、よく話していた。
何食ったらこんな性格悪い文章書けるんだ……とドン引きした一文。アキの母親の、離婚した父親に対して言及するシーンの一文。結果として私は引いてしまったが、作品に乗れさえしていれば、この一文に「すごい! こんなに"嫌"を切り取れるなんて!」と大いに感動したかもしれない。