岸本惟『迷子の龍は夜明けを待ちわびる』感想

DiaryC0093,書籍感想,長編感想

岸本惟『迷子の龍は夜明けを待ちわびる』(新潮社)

公式サイトから引用

https://www.shinchosha.co.jp/book/353911/

読み始め:2023/2/28  読み終わり:2023/3/2

あらすじ・概要
余命わずかな老人のために、天空語で書かれた日記を読んでやってほしい。天空族のセイジはその依頼を受けることに。しかし、訪れた山の屋敷には、ある家族を襲った哀しい事件の真相と、天空族の秘密が眠っていた。過去を打ち明けないまま消えていこうとする龍と、さまよう少年の亡霊を救うために、セイジはある決意をする。

読んだきっかけ
日本ファンタジーノベル大賞受賞作ぜんぶ読む。

コメント・感想
 雰囲気は好きだが個人的にはそこまでハマらなかった。設定は面白く、天空族についてはもっと知りたかった(ので、予想がつく話だけで終わってしまったのが残念だった)。中盤くらいから材料が出揃い始めるので「なんとなくこうなるのかな」と予想がつき始めるのだが、そうなってからの展開がのったりのったりしている。盛り上がりどころがない。ただ、ユッカはかわいい。子どもの扱いづらさがよく出ていて面白かった。一方で龍はあんまりキャラが定まっていない感じ。「悪いやつじゃない……んです、よね……?」と、居心地の悪い時間が作中長く続くのでそこがストレスだった(実際作中でも主人公が「龍を信頼していいのかはっきりさせたい、はっきりしないこの状態がストレス」みたいなこと言ってるし、主人公がそう思うくらいなのだから読者もそこはストレスなわけで)。また、主人公に与えられた試練が、確かにつらいものだし共感もできるものではあるのだけど、ちょっと傷つきすぎというか、主人公なんだからもっと虐めてやってもよかったんじゃないかと思う。主人公の再起の物語であることは最初から分かっていて、そこに到達してくれるだろうという信頼はあるからこそ、その過程の起伏はもっと激しくてよかった(これは、自分も小説書く時には気をつけよう……という自戒を込めて……)。
 情景描写は豊かで、とくに植物たちが出てくるあたりはぞっとする美しさがあってよかった。ただ、全ての説明が龍と主人公の会話中だけで完結されていくので、なんとなく作中のテンションに乗り切れずに終わる。植物たち、特に梅の花とのやりとりなんかはもっと盛り上がっても良いと思うんだけど、気づいたら読み終わっていた。ラストは爽やかで良いと思う。