【ネタバレあり】似鳥鶏『午後からはワニ日和』感想

DiaryC0193,書籍感想,長編感想

似鳥鶏『午後からはワニ日和』(文春文庫)

公式サイトから引用

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167801779

読み始め:2023/2/12  読み終わり:2023/2/12

あらすじ・概要
「イリエワニ一頭を頂戴しました。怪盗ソロモン」凶暴なクロコダイルをどうやって? 続いて今度はミニブタが盗まれた。楓ヶ丘動物園の飼育員である僕(桃本)は解決に乗り出す。獣医の鴇先生や動物園のアイドル七森さん、ミステリ好きの変人・服部君など、動物よりもさらに個性豊かなメンバーが活躍する愉快な動物園ミステリ。

読んだきっかけ
動物園を舞台にしたミステリのネタを思いついたので、先行例がないか探していたときに見つけた。どうやって差別化を図ろうか考えたかったのと、純粋に興味があったので読んだ。

コメント・感想
 とても完成されたミステリだった。目次が四章立てだったので、短い話が四本あるのかなと思っていたが一本の長編小説だった。まずそこを誤解していて、思ったより本格的なやつが始まってびっくりしたというのがある。私がやりたいのは連作短編だしここまで本格的なものじゃないから被らなくて良かったな、と良いのか悪いのかわからない安心の仕方をした。伏線のさりげなさが手慣れてる人って感じですごかった。本文の中に話題として挙がっていたことは思い出せるけど、そこが事件に繋がるとはパッとわからないよね、というところに上手く忍ばせてある。まあこれは私がミステリ筋未発達だからそう感じるだけかもしれないんですが……。ちゃんとミスリードとかもあってよかった。さくっと動物死んでたのもびっくりだったし、なかなかヘビーな犯罪に巻き込まれていて、オー……となった。動物好きなので普通にショックだった。そのへんの読者の感情の処理も兼ねてだと思うのだが、作中で主人公の動物園と飼育員にまつわる哲学を語ったり、犯人の動機に動物への愛が忍ばせてあったりといった点から、真剣に動物園という存在に向き合って書かれていることが伝わってきたのはよかったと思う。続編ぜんぶ買ったのだが、なんかあらすじ見たら次は殺人事件が起きるっぽく、オー……となっている。余裕のあるときでないと読めないかも。自分でも意外だったのだが、人が死ぬのとか警察が動くタイプの事件が起こるのとかそこまで好きじゃないらしい。それが今までミステリをあんまり読んできていない根本的な理由なのかもしれなかった。殺人事件の被害者は、殺されたらそこで終わりで、それからは加害者の動機や、どうやって殺されたかでしか語られることがなくて、なんかそれが傲慢な気がして悲しいのかもしれない。いや一ジャンルにそんなこと言っても仕方ないんですけど……。自分の好みは自分でどうこう弄れるものでもないので難しい。話を本作に戻すと、やはり動物園や飼育員の仕事についてはよく調べられていて、私もこのくらいは把握して書かなければ……と気が引き締まる思いだった。動物園不要論は、存在だけは知っていたけど今回自分が書こうとしている小説を書くにあたってそこまで調べなくてもいいかな、と正直思っちゃってたので、もっと広く勉強しなければと反省した。というより、この本が資料の一つとして活用できるほどの情報密度で、ありがたい……。ソロモン王が動物の声を聞いたという話は知っていたが、それが動物園職員のなかでも割と知られている話とは知らなんだ。もしかしたらそこは作者の創作なのかもしれない。ウァレフォルという名前、知ってる人はなんとなく「あー盗賊だからね〜」とすぐピンと来ると思う。絶妙なラインついてきたな〜と思いつつ、ソロモンの使役する72柱の悪魔の名前を把握している自分に少し気恥ずかしさを覚えたりした。
 スカイエマさんのイラスト久々に見た気がする。なんか小学生から中学生にかけて、この方が装画を担当している本をめちゃくちゃ図書館で読んでいた記憶があるので懐かしかった。