【ネタバレあり】澤西祐典『フラミンゴの村』感想

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澤西祐典『フラミンゴの村』(集英社)

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読み始め:2023/1/6  読み終わり:2023/1/6

あらすじ・概要
19世紀末のベルギー。農夫のアダン氏はある日突然「妻がフラミンゴになる」という不条理な出来事に遭遇する。忌み者扱いを避けるため家族の秘密にするが…。極限状況での人間心理を暴く! 奇想天外な第35回すばる文学賞受賞作!

読んだきっかけ
フラミンゴの登場する小説を書きたくて、先行のものにはどのようなものがあるのか知りたかったから。

コメント・感想
 フラミンゴの描写が扇情的で良かった。ある日、村の女性たちがフラミンゴになってしまう。理由は書かれないし、元の姿に戻ることはない。意思の疎通もできない。始めは家単位で、次第に村単位でその事実を隠そうとする男たちが描かれる。主にアダン氏の日記によって何が起こったかを把握するしかないのだが、どうもその日記の記述も怪しいところがある。いわゆる信頼できない語り手というやつ。最後には旅の者があらわれ、第三者からその村についての噂が語られさえする。結局真相は誰にも分からず藪の中、というやつだ。手法としてはよくあるものだし展開も読めるのだが、なんか村の感じが生々しくてページをめくってしまう。神父が殺人を犯すシーンが好き。あと、結末の文章は情景がばーっと浮かんでカメラがだんだん遠ざかっていく感じで、なんかとても良かった。

良かった文・シーン
沼のそこら中で裸の男とフラミンゴが入り乱れ、深く交わり合っていたのだ。フラミンゴは赤い羽根を散らしながら挑発的に逃げ惑い、その姿にそそられて、男たちはいっそう水面を波立たせる。羽に水しぶきを散らせたフラミンゴが鳴き惑う声と、男たちの激しい息遣いが絡み合い、沼のほとりへと響き渡っていたという。(p.131-132)