ディーン・R・クーンツ『ベストセラー小説の書き方』読書記録

DiaryC0198,書籍感想

ディーン・R・クーンツ『ベストセラー小説の書き方』(朝日文庫)

Amazonから引用

https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=3453

読み始め:2023/2/18  読み終わり:2023/2/18

あらすじ・概要
世界中に知られる超ベストセラー作家が、さまざまな例をひきながら、成功の秘密をあかす好読み物。

読んだきっかけ
吉田親司『作家で億は稼げません』におすすめ本として挙げられており、家にあったので読んだ。

コメント・感想
 冒頭を読んで、なんか読んだ覚えあるな? と思った。多分以前にも読んでいる。どうせ忘れているだろうから読み返した。引用されていた物語は、やはりほとんど覚えていた(面白い物語しか引用されていないからに違いない)。しかしアドバイス部分は、何度読んでも新たな発見があって、また読んでよかったと思わされた。この本が書かれたのは1980年代なので、本書で描かれている出版業界の状況や、ミステリやSFなどジャンル小説についての話など、今とは多少状況が異なっている部分はありそうだが(おまけに国も違うが)、ここはいつの時代でもどこの国でも変わらない話だろうなという普遍的なアドバイスが多くの割合を占めるのがすごい。個人的には、第十二章と第十三章が胸に来る。
 楽そうに見えるから作家になりたいと思っているむきには、ふたつの落とし穴が行く手に待ちかまえている。まず、物書きという職業は怠け者にはむかないと気づいたとき、失望という名の浅い落とし穴が、足元にぱっくりと口を開ける。もしも、ちょっとおもしろそうな物語をタイプで叩きだせばいいくらいに簡単に考えて、ごくわずかな時間や労力しかさかないとすれば、やがて、手軽に書いた手ぬき作品など買う人もなく、膨大な原稿用紙の山も、たんなる時間の浪費だったことに気がつくはずである。これがわたしのいう第二の、より深い落とし穴である。
この文章やめてほしい。怖すぎるって。自分では手抜きだと思っていなくても、まだやれることはいくらでもあるはずなのである。でも、完璧主義に陥りすぎると書けなくなるだろう。なんと恐ろしいことか。
 登場人物の身辺調査書づくりはやってみようと思った。物語を進めるうえで登場人物について考えておくべきトピックがうまくまとまっているので、そのまま書き込めるフォーマットをオリジナルでつくって活用しようかなと思う。
 ちゃんとヒーローとヒロインを出そうね、という主張にはある程度首肯できるも、男女一人ずつ主人公格を出そう、読者は恋愛が好きだから恋愛を取り入れろ、という主張は私には受け入れられなかった。これは時代の変化だと思うし、私自身の志向の問題でもある。
 第十四章「読んで読んで読みまくれ」はブックガイドでもある。これについては挙げられている作家をほとんど知らないうえに一冊でも読んでいるかどうか怪しいといった具合で、もう本当にごめんなさい、私は「一般大衆小説で成功する見込みは、ほとんどない」カスです……、と打ちひしがれそうになってしまうのだが、あくまでリストは1980年代の現代の作家たちを集めたリストであって、今でも名作揃いではあるんだけど、「よし、あなたの言う通りこれ全部読みます!」とリソースの大半をぶち込むには少々躊躇する。代わりに、小川榮太郎の『作家の値打ち』に載っている作品でも読もうかしら。小川榮太郎の思想と好みにはあまり共感できないが、あの本はブックガイド、現代日本の流行作家を網羅した一冊として大変優れていると感じる。(追記:さきほどリストアップしてみて、あまりにも読んでいない本が多すぎて参ってしまった。全部読むというよりは、読む本に迷ったらリストの中から選んでいこうと思う)

良かった文・シーン
成功するためには、何をおいても、いいかげんななぐり書きではない、きちんと構成された物語がなければならない。次に、その物語は多数の人びとの興味を引く何かを持っていなければならない。第三に、その物語には、何かほかのものとちがう、特別なものと思わせる広がりと深さ、文体と活力がそなわっていなければならない。第四に、最初の宣伝攻勢が終了したのち、ただちに口コミに取り上げられるだけの娯楽性をそなえていなければならない。そして最後に、時を得たときに時を得た本を市場にぶつけるには、ある程度の幸運にも恵まれていなければならない。(p.62-63)
小説を成功させるコツのひとつは、実生活上のいろいろな経験に、ピリッときくエッセンスを加えて調理するところにある。つまりプロットの枠のなかに混沌とした現実世界をしっかりはめこむことによって、それが意味深い真実の瞬間に結晶されるのである。もしも作家が登場人物たちに全権をゆだねてしまったら、知性という冷静で確実な案内人なしに、作品を書くことになる。その結果は、現実の世界に起こる多くのできごとと変わらぬ、形も意味もない小説ができあがり、そんな小説が多くの読者をがっかりさせるのは目に見えている。(p.77)
書くこと、それも六時間以上ぶっつづけで書くことこそ、潜在意識の奥底にあるアイデアのポンプに、呼び水を与えることになるのだ。(p.85)
君が選んだ話題について、それぞれがどんな反応を示すかよく見まもること。つまり彼らの意見に耳を傾けるのだ。まちがっても彼らを君自身の考えの代弁者にすることだけは避けなくてはならない。それがすんだら、君は彼らの気持になって、その心の動きを知らなくてはいけない。そこでこんなことを自問してみるといい。ふたりはそれぞれ、この世の中でなにを一番恐れているか? それぞれにとって最悪のできごととはなんだろうか? どんなできごとが不安に陥れるだろうか?(p.103)
編集者が無名の作家の原稿を手にしたとき、彼が目をとおすのは多くて三ページというところである! その中でなにもつかめなかった場合には、先を読むことはないだろう。(p.106-107)
プロットの結末、つまり主人公が恐ろしい困難を克服する方法は、小説のオープニング・シーン同様に重要である。なぜなら読者が本を読み終わって数日、数週間、数カ月経ってから思いだすのは、このラストシーンだからである。(p.162)