【ネタバレあり】『スパイダーバース アクロス・ザ・スパイダーバース』感想

Diary映画感想

『スパイダーバース アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023)・140分

観た日付:2023/7/5

どこで観た:映画館

あらすじ(コピペ)
ピーター・パーカーの遺志を継いだ少年マイルス・モラレスを主人公に新たなスパイダーマンの誕生を描き、アカデミー長編アニメーション賞を受賞した2018年製作のアニメーション映画「スパイダーマン スパイダーバース」の続編。マルチバースを自由に移動できるようになった世界。マイルスは久々に姿を現したグウェンに導かれ、あるユニバースを訪れる。そこにはスパイダーマン2099ことミゲル・オハラやピーター・B・パーカーら、さまざまなユニバースから選ばれたスパイダーマンたちが集結していた。愛する人と世界を同時に救うことができないというスパイダーマンの哀しき運命を突きつけられるマイルスだったが、それでも両方を守り抜くことを誓う。しかし運命を変えようとする彼の前に無数のスパイダーマンが立ちはだかり、スパイダーマン同士の戦いが幕を開ける。

観たきっかけ
前作も観ていたので。

コメント
 面白かった。期待を裏切らない。アニメーションはさらに洗練されているし、音楽もストーリーも素晴らしい。スパイダーマンが大量に出てきて大捕物やるシーンなんて狂気でしょう。パプリカのパレードシーンくらいの凄みを感じた。
 今のところ、グウェンしかりピーター・B・パーカーしかり、家族にスパイダーマンであることを打ち明けたかそうでないかで明暗が分かれている感じがある。「スパイダーマンと個人という半分ずつじゃなくて、全てを自分と認めること、それは自己のレベルでというよりは社会的なレベルでも同様に」というのは「悲劇のスパイダーマンだって運命を変えられる、でもどうやって?」の答えには確かになりうるけど、「カミングアウトすることによって」という答えは今の世の中ではちょっと楽観的すぎやしないかという気持ちもある。一作目では「誰もがスパイダーマンになれる(である)」というテーマをこれでもかと見せつけられたので、二作目でこのテーマに行き着くことは必然ではあるが、カミングアウトしたくないスパイダーマンだっているはずだし(スパイダーマンたちが同じような運命を辿ることで同じような結論に落ち着くこと、それすらも運命だとされるのかもしれないがそれでも)、失う大切な人がいないスパイダーマンだっていて良いはずだ。その辺りまで切り込んだことは、今回の三部作では描けないんじゃないかなあという気はする。やはり、家族との絆の話に寄ってしまっているので、そうした部分にスパイダーバースの限界を感じた。……まあ、そんな問いにまで答えを用意されていたら、とんでもない超絶怪物大傑作になってしまうので、注文のし過ぎだとは思うけど。
 最近の脚本は最後にまた一捻り大きな山を持ってくる傾向が強いなと思っているのだけど(例えば、トップガンマーヴェリックのような、お約束なんだけど転調がある感じ)、最後の「スパイダーマンが存在しない世界に飛ばされる」という展開は、予想できたはずなのにできなくて悔しく感じた! すごい。脚本が偉すぎる。確かに言われてみれば必然的にそうなるのに「おお」とちゃんと驚かされた。ものすごく展開を盛り上げるのが上手いと思う。最後の「昔のダチを連れてきたぜ!」のシーンとかもう胸熱すぎて来年まで待てなくなりますね。そしてなんといっても、スポットという敵キャラが最高すぎる。あんなに魅力的な敵キャラ、スパイダーマンにいまだかつて存在したでしょうか(ドック・オクは殿堂入りかもしれないけど)。闇マイルスとスポットと、一体どう畳んでいくつもりなのかワクワクが止まらない。本当に考え尽くされた脚本だと思う。羨ましい。
 本作にもスパイダーマンにお決まりのシーンがこれでもかというほどお出しされていて楽しめた。と同時に、その「デジャブ感」が「スパイダーマンは皆同じような体験をしている」という事実によってより重層的な意味を帯びてくるところとか、本当に話作るのが上手いなあと思う。例えばミゲルは完全な悪人じゃないかもしれないけど、プラウラーを思わせる鉤爪がついている。スパイダーバースでは一つの世界に大勢のスパイダーマンが集められてはいるものの、そこが全バースの中心であるというわけではない。ミゲルの世界だってスパイダーマンのいる世界の一つにすぎないわけで、その世界からスパイダーマンたちの運命を完璧に制御しようたってそんなことできるわけがない。それを裏付けるように大捕物のシーンなんかは、「スパイダーマンがいる物語にありがちなこと」のオンパレード、変奏につぐ変奏となるわけで、そういう意味でも素晴らしいシーンだった。
 そうそう、そういえばミゲルは「別次元の自分になりかわろうとした」んですよね。これも第一部の変奏で、これをやってしまうと世界が滅ぶというのも大変わかりやすい。わかりやすいと同時に、結局「置かれた場所で咲きなさい」的な結論に陥りがちになってしまうところはやっぱ窮屈に感じてしまうけど。スパイダーマンは大いなる責任の話なのでこのあたりは仕方のないことなのかも。
 総じて非常に満足度の高い作品だった。続編の公開が楽しみだ。