鳩造りの工程

Works小説,造鳩會

 材料は、豆五百グラム、にがり大さじ二杯、ソブリン金貨一枚、子どもが失くした片足の靴、ラスコヴニクの茎一本、月の砂五グラム、チュニジア産の砂漠の薔薇七.八二グラム、タマルを蒸し終わったあとのバナナの葉、オーストリア産シーグラス少量、忙殺されたサラリーマンが捨てたマッチ棒一本、パンの耳三本など。その他、機密となる材料が二、三ある。材料を集めるだけでも一苦労であることがお分かりいただけるかと思う。造鳩會では日夜努力を重ね、材料取得の効率化を図っている。それぞれの材料集めに特化した専門人材を集め、會員を各地に派遣している。最適化が進み、現在では一日に四百本の忙殺されたサラリーマンが捨てたマッチ棒、二万足の子どもが失くした片足の靴を安定して仕入れることが可能となった。會員からは感謝の声を聞くことが多い。誰も彼も昨今の世の中で生き抜くことを諦めていた者ばかりで、直截な言い方をすると鳩を造る仕事がなければ路頭に迷っていた者がほとんどである。彼らにとって自身の能力を存分に発揮して鳩を造る工程の一端に加担しているということがどれほどの救いとなっているかは計り知れない。
 材料が全て揃うと、まずはラスコヴニクの茎から骨組職人が鳩の骨格を構築する。同時並行で、豆、にがり、削って粉末状にしたソブリン金貨、裂いて繊維状にした子どもが失くした片足の靴などを煮込み、醸成させる。こちらも、温度摂氏二十二.四度、湿度五十八%、北北東から時速〇.二メートルの風、四割の人間が不快に感じる天気であること、これらを遵守したうえで煮込む必要がある。煮込み屋はそれらの厳しい条件を徹底的に管理したうえで、一度に三百羽ほどの鳩の源汁をまとめて煮込む。源汁は続いて、風味を損なわぬうちに肉付け師の元へ運ばれる。骨組職人のつくった骨格と、煮込み屋の生成した源汁を、独自に制作した型に流し込み固めていく。この段階までくれば、皆さんが普段目にする鳩の姿が少しずつ見えてくる。バナナの葉、月の砂、砂漠の薔薇などはこの工程で使われる。それぞれ、羽根、鼻瘤、脚へと彫刻し、形を整える。最後の工程は残念ながら機密事項であるが、その工程を経て鳩はようやく完成し、工場から出荷される。その後は鳩耐久センターにてテストを実施し、三度の厳しい審査に耐え抜いた鳩だけが、こうして皆さんの目の前へ現れるというわけである。