マーク・矢崎『降霊術の不思議 キューピッドさんの秘密』感想

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マーク・矢崎『降霊術の不思議 キューピッドさんの秘密』(二見書房)

読み始め:2023/2/15  読み終わり:2023/2/15

あらすじ・概要
 キューピッドさんを正しく呼び出して、大きな夢を叶えましょう
 降霊術というと、つい、コックリさんを連想して、キツネにとりつかれるのではないかと思ってしまうあなた。
 キューピッドさんは、キツネではありません。正しくやれば、決して呪われたり、とりつかれたりすることのない、あなたの強い味方です。
 本書は、いままでの間違った降霊術の知識とやり方をただし、あなたの〈恋〉〈友情〉〈勉強〉〈お金〉〈トラブル〉〈未来〉についての不安に答える安心の最新降霊術です。
 さあ、あなたも正しくキューピッドさんを呼び出して、大きな夢を叶えましょう。

読んだきっかけ
執筆中の小説の資料として。高騰しているが、たまたまメルカリで少し安めに出ているのを見つけ、購入。

コメント・感想
 「キューピッドさん」について検索をかけると、ムーのこの記事がヒットした。なかなか上手くまとめられていて、正直この本を読まずとも「キューピッドさん」とその派生系の流れについて把握したければこの記事を読むだけで良い。
昭和子ども交霊術ブームと「脱法コックリさん」の進化/初見健一・昭和こどもオカルト回顧録
 ただ、本書「第一章」の内容は興味深く、買ってよかったと思う。コックリさんとはそもそもなんだったのかを解説し、それからキューピッドさんとコックリさんはそもそも呼び出す対象が異なるのだと筆者は主張する。言い忘れていたが、筆者は「女の子向けのまじない専門誌に、読者からの相談コーナーを担当している」人物らしい。その人物が言うには、「キューピッドさんの正体はずばり霊で、そもそも霊というのは私たちの身体の中にあるものであるし、死んだら皆霊になるのだから必要以上に恐れることはない。しかし霊だからといって生前は命を持った誰かだったのだから、人としての礼儀に欠けた対応をしたら怒って帰らなかったり霊障を与えたりするのも無理はない。キューピッドさんで呼び出したときはまず相手の名前を聞くのが礼儀だし、次に呼び出す時は『キューピッドさん』ではなく『◯◯さん』とそちらの名前で呼ぼう。それに、仲良くなるとその霊も悪い気はしないのだからあなたの守護霊にすらなってくれるだろう」とのこと。うーん世紀末! という感じがして嬉しい。
 巻末に「こんなときどうすれば?」のQ&Aが載っていてなかなか興味深い。「二週間後に死ぬと言われた!」という悩みに対しては「おどしに負けない心と供養が大切だ」と書かれている。「なかなか帰ってくれない」ときは「話を聞いてあげよう。ただしやすうけ合いは禁物」、「取り憑かれたら」「明るくふるまって自分のオーラを高めよう」、「腕が原因不明で痛くなったら?」「大日如来を表すぼん字と食塩水で清めよ」。「護符の力でエクトプラズム現象を消そう」なんてアドバイスもある。
 また、それぞれの降霊術(キューピッドさん以外にも、星の王子さま、森のシチュー屋さん、フラワーさん、ファラオさん、文心さん、コブリんさん、などなんか色々いる!)には、細かい実践方法だけでなく匿名で全国から集められた体験談がセットで載っている。フラワーさんと文心さんに至っては、筆者オリジナルの文字盤付録までついているという親切さ(文字盤を見ると「分身さん」になっているのだが、これは誤字だと思われる)。

 なんというか、時代を感じる。本書は1989年初版発行。コックリさんは、1973年、つのだじろう『恐怖心霊レポート うしろの百太郎』の一エピソードをきっかけに全国の学校へ広まったと言われている。その後、コックリさん禁止令が発令されることになり、あとは先程リンクを貼った記事にある通り「脱法コックリさん」が連綿と広まっていったようだ。子どもたちの間で「コックリさん」の派生系が広まったのは1970年代からだが、20年経ってようやく大人が網羅・分類して本を制作できるまでになった、と考えると、子どもの流行というものにはどう足掻いても追いつけないなと思わされる。しかし、コックリさんとその派生系は、もはや流行りと呼んでも良いのか迷うほど「息が長い」。私が小学生のころ(たしか十数年前だ)にも「コックリさん」の存在は認識されていた。私たちは「コックリさん禁止令」が出された世代が産んだ子どもたちでもあったから、親から「絶対にコックリさんはやらないように」とキツく言い渡されていたりもした。ちなみに私は親からそう言い聞かせられていたにもかかわらず、一度だけ「コックリさん」をやったことがある。クラスの男子がそそのかしてきて「あいうえおと書いて十円玉でこする」らしいという情報を得たので、何がそんなに怖いんだろうと、律儀に自由帳へ「あいうえお」とだけ書いてそれを手持ちの十円玉でこすったのだ。その時点ではコックリさんについて「なんかやってはいけないらしい」ということしか知らなかったし、当然、やり方も完全に間違っているので何も起こらない。しかし「やってはいけない」と言われていたことをやってしまった、という罪の意識だけはあって、結局母親に相談して、こっぴどく叱られた。母親は、自由帳に書かれた意味不明な「あいうえお」を見て何を思ったのだろうか。
 それ以来、なんとなく「本物の」コックリさんをやりたいという気にもなれず、そのままである。今回こんな本を入手しておいてではあるが、「キューピッドさん」とその派生系たちも実践するつもりは毛頭ない。
 ちなみに、欧米ではOuija Boardというのがあるらしい。本書についてトゥートしていたらFFの方が記事を貼ってくださった。
The Strange and Mysterious History of the Ouija Board Tool of the devil, harmless family game—or fascinating glimpse into the non-conscious mind?
 Ouija Boardの方が歴史が古いが、Ouija Boardを用いた占いについて「悪魔に取り憑かれる」「良くないものである」という「恐怖」が伝染したのは、1973年に映画『エクソシスト』が公開されてからであると記事には記載がある。コックリさん禁止令が出された時期もおよそそれくらいだったはずだ。なんだか、世界中で似たような現象が同時多発的に発生するのは興味深い。