平山瑞穂『エンタメ小説家の失敗学〜「売れなければ終わり」の修羅の道〜』感想

2023-02-08DiaryC0293,書籍感想

平山瑞穂『エンタメ小説家の失敗学〜「売れなければ終わり」の修羅の道〜』(光文社新書)

https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334046460

読み始め:2023/1/30  読み終わり:2023/1/30

あらすじ・概要
いつの時代もあとを絶たない小説家志望者。実際にデビューまで至る才人のなかでも、「食っていける」のはごく一握りだ。とりわけエンタメ文芸の道は険しい。ひとたび「売れない」との烙印を捺されたら最後、もう筆を執ることすら許されない――。
そんな修羅の世界に足を踏み入れてしまった作家は、どのような道を辿るのか。華々しいデビュー、相次ぐ映画化オファー、10万部超えのスマッシュヒット――。栄光の日々すら塗りつぶす数々の失敗談と、文芸出版の闇。商業出版の崖っぷちから届けられた、あまりにも赤裸々な告白の書がここに。「書く」前に「読む」べし。

読んだきっかけ
日本ファンタジーノベル大賞に応募予定なので、著者がその賞からデビューしたという点に興味を惹かれた。

コメント・感想
 読者は思っている以上に「共感」を求めているという点には唸ってしまった。まさにそこに悩んでいる節はある。私は人よりそうした「共感」に疎い人間なので余計に。本好きや編集者や作家などにはある程度本を見る目があるので共感を軽視しがちなのだが、一般的な、もっと広い読者層は本に「共感」を求めていることが多い、という旨が書かれていた。広く読まれれば読まれるほどこちらでは想定していなかった感想が多く散見されるようになる、という記述には首肯せざるを得ない。たとえば、映画館で映画を見て、そのあとトイレに行くと同じ会場内にいた観客の素朴な感想を聞くことができるが、そうしたとき「人間って思った以上に『感動』に重きを置いているんだな」という気持ちにさせられることが多い。それは小説でも同じということなのだろう。
 ただ、筆者の辿った道はやや特殊な気がする。五大文芸誌の賞に引っかからなかったので趣向を変えて日本ファンタジーノベル大賞に応募してみたら受賞してしまった。そしてその後の作風が固まらず迷走してしまう……。「失敗を書いた本です」という前提で読まされているからに違いないのだが、失敗のほとんどが「まあそりゃそうなるでしょうね……」と言いたくなるものばかり。しかし、いざ自分がその渦中に投げ込まれてしまえばそうやって俯瞰する余裕なんてないのかもしれず、恐ろしい話だと思った。カテゴリーエラーでなぜか受賞してしまった不幸な例として読んだ。意外と自分から見るとどのジャンルが向いているかとか、自分の文章の良いところとかわからないよね……と思う。これは目下自分でも悩んでいるところなので反面教師として読ませていただいた。