【コミッション②】増茂

Worksコミッション,小説

【先週のワンピースとhunter×hunterを読む。レイリーが白ひげの死を見て涙を浮かべてるのね。(2010.03.20)】

 これが遡れる限りで最も古いツイート。白ひげが死ぬのって、もうだいぶ前。そうか、この時期に白ひげは死んだのか。

【リツイートって何?(2010.03.21)】

 これに、「リツイートよくわかんない。エラーってでてきちゃう。」とリプライがあり。Twitterがローンチされたのは2006年7月15日らしい。だけど、その時代この場所にそんなに人はいなかったから、2010年の段階でもリツイートという言葉は浸透していない。このアカウントは、そういう時期に誕生した。2010年11月から2011年8月まで、ツイートはない。大きな震災が国を襲ったとき、アカウントは静かに、ただそこにあり続けていた。当時学生だったのだろう、映画を観たり、芝居を観たりしている。段々芝居を観る時間が減ってきていることを嘆いている。

【まみれろ。(2013.12.17)】

 2014年、半角カタカナが打てるようになって、半角カタカナのツイートが増える。【スチャッ。(2014.12.26)】【ウフフ アハハ(2014.12.29)】【ワッショイ…(2014.12.31)】。

 2015年、ツイートの量が一気に増える。それでも大抵のツイートは一行に収まる。「妻」という言葉が登場する。仕事をしている。【仕事〈納め〉という能動性。(2015.12.28)】

 ここで [問題が発生しました。再読み込みしてください。] と無慈悲な文字が表示され、何度リロードしてもこの問題は解決しない。新しいタブを開くと無事に続きが表示される。どうやら、タブ一つごとに読み込めるツイート数の制限がある?

【当直室に猫が一匹いればそれでいいんだが。(2016.08.27)】

 当時から猫が好きだったようで、実家にも猫がいるらしい。このころからアイコンは猫だったのだろうか。ポケモンGO、サッカー、さまぁ〜ず、ももクロ、プリキュア。

【結婚8年目の祝いの式典は「ゴム婚式」というらしいです。(2016.10.15)】

【だがしかし楽しそうなよい式だな。(2016.10.15)】

 また問題が発生する、タブを開く、追いつかれないように。問題が発生する。ウィンドウを閉じる。問題が発生する。別ブラウザを開く。問題が発生する。端末を変える。

【半年以上放置して腐らせてた臨床研修修了申請書みたいなやつをやっと送りつけたので俺の研修もようやく終わりつつある。(2016.12.17)】

【占い師ってガラケー使ってるよな。(2017.09.06)】

【念獣だ。(2017.10.08)】

【外来でリストカットして大騒ぎする患者に対して「アヴェ・マリア」を歌って鎮めたという精神科医の実在を確認した。患者は自分でぶちまけた色々なものを静かに片付け始めたらしい。(2017.12.02)】

 ここで端末もアウト。PCに戻るとタイミングよく検索機能が復活している。作業続行。

【今年も当院玄関において、絶対にそこに巣を作りたいツバメvs. 絶対にそこだけには巣を作らせられない病院の闘いが始まった。(2018.05.17)】

【去年はツバメが勝っていた。(2018.05.17)】

 本当のお客様(@yutomsm)は、必ずツイートの末尾に「。」をつけるようだ。これは大きな発見かもしれない。

【実家で最も人に懐いていない猫が体調不良になってしまい、捕獲に難渋している。(2018.09.26)】

【捕獲に成功し動物病院へ。(2018.09.26)】

【猫は入院した。(2018.09.26)】

 猫は無事だろうか。

【救急医学会が医者を守ろうとしているのはとても良い取り組みだと思うんだけど、「救急医が健康であること。これは義務だ。」という言葉からは少し距離をとりたいな。(2019.08.01)】

 再びツイートが読み込めなくなった。少し休憩しようか。

 

「それで、どうやって見分けるんですか」

 わたしたちに残された手がかりはこれしかないんだ。文面を学習して、本物を見分けるしかない。

「そんなのAIにやらせれば」

 AIにツイートを読み込ませてみろ、偽物のお客様がさらに増えるだけだぞ。

 はあ、と部下はため息をつきながら照準を合わせる。目が3つある猫のアイコンを狙撃、無事撃破。

「キリがないですよこんなの」

 偽物のお客様は今も増え続けている。

【無理すぎてガルシア=無理ケスのマジック無理アリズムの『無理ンディラ』になってしまった。(2020.02.29)】

 ここだ、特異点。奇しくも閏年。このツイートをするのに2ヶ月かかったんだ。この時期から、ゆっくりと偽物のお客様が這い出てきた。

【赤子がプロト・ハイハイで2歩動いた。(2020.08.25)】

 通信が復活した。これは本当。わかるか? 2歩歩いた、とはしない。なぜなら「歩」の字が重複して見た目が気持ち悪いからだ。それに、赤子は歩いたんじゃなくて「動いた」んだ。そいつは偽物だよ。

 射撃。

【赤子がかわいい午前3時。(2020.09.18)】

 通信が復活した。

【「20分後」の「プンゴ」の部分(2021.07.09)】

 初出発見。やはり、部分ツイートをしていないのは偽物だけだ、射撃許可。

「射撃します。一斉掃射」

【「親ガチャ」も「メンヘラ」と同じくこの言葉を使ってきた人にとってどんな意味があったかを考えればそう簡単に「ひどい言葉だ」なんて言えない。(2021.09.22)】

【千葉さん宮台さんの対談をzoomで聞いていたら、赤子が対抗して大声で話しはじめたので、うちでは鼎談になっている。(2021.10.01)】

 赤子がいないやつを射撃しろ。

「ちょっとそれはつらいです」

 代われ、わたしがやる。

【文フリ36の出店申し込み完了したぜ。 #読みながら考える でよろしくおねがいします。(2022.12.30)】

 文フリに出てないやつ、射撃。

「はいはい」

 精神科医じゃないやつ、射撃。

「もうやってます」

 うつ病じゃないやつ、射撃。

「ああ、ピンピンしているのに……」

 射撃、射撃、射撃。

 射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。射撃。

 射撃。

 

 残ったのは3体だけか?

「はい」

【私は最近誰に頼まれたわけでもなく大学院で得た臨床医としての学びについて延々と考えているのだけれど、その臨床医としての学びは絶対に論文には載らない。(2023.12.30)】

 論文書いてるやつはいるか?

「全員書いてないです」

 くそ。じゃあ行った展示会や読んだ本の感想を丁寧に書いていないやつ。

「一体射撃します」

 はい、これで二択に絞られたわけだ。

本当のお客様A「私が本当のお客様です」

本当のお客様B「私が本当のお客様です」

 偽物はみなそう言うだろう。それにしても、見たところ違いが一切ない。同じツイートを繰り返し続けている。

 どうでもいいツイートをしていないやつは偽物だ、それを確認しろ。

「双方、どうでもいいツイートをしています」

 フォロー数、フォロワー数もまったく同じか?

「どちらも1221フォロー、1426フォロワーです」

 むむう。

「あの、」

 なんだ。

「フォロワーを呼んできて判断させたらいいんじゃないですか?」

 良い案だ。連れて来い。

 

「呉樹直己(@GJOshpink)さんを連れてきました」

 良いんじゃないか。本当のお客様とのかかわりも長いだろうし、これならはっきりするだろう。

呉樹「正直荷が重いです」

 大丈夫だ。これは必要なことなんだ。

「では、呉樹さんについて知っていることを双方聞かせてください」

本当のお客様A「亀が好きですね」

本当のお客様B「それ私も言おうと思っていたのに」

 これはBが怪しいんじゃないか。

「いやあ、さすがにそれで決めつけるのは……」

本当のお客様A「あと、最近だと政治的なvlogでご活躍されている」

本当のお客様B「ノンバイナリーZINEも売れ行きが良さそうですし」

 むう……わからん。呉樹さんはどうですか。

呉樹「わかるわけないでしょう。部分ツイートでもさせてみたらどうです」

 どちらが部分ツイートを上手くできるか? それとも下手な方が本当なのか?

呉樹「部分ツイートの巧拙なんてわたしには判断できませんよ」

 それもそうだな……八方ふさがりか? なんとかここまで減らしたのに……。

呉樹「夜になってアイコンの猫の目が光る方が偽物ですよ」

 そんなどうぶつの森みたいな真贋鑑定方法で?

 とりあえずやってみるか。

 

 夜になった。

 

 本当のお客様A・B「「ピカーーーーーー」」

 

 光った。

 

呉樹「光りましたね」

 まさかどっちも光るとは。どっちも偽物なんじゃないか?

呉樹「……」

 どうしましたか。

呉樹「実は、それは少し思っていて」

 どういうことですか。

呉樹「(こちらを指さす)」

呉樹「本当のお客様は、あなただと思うんです」

 

 暗転。

 

 やり直し。もう一度、2010年のツイートから遡ってみよう。

「先週のワンピースとhunter×hunterを読む。レイリーが白ひげの死を見て涙を浮かべてるのね。(2010.03.20)」

 これが遡れる限りで最も古いツイート。白ひげが死ぬのって、もうだいぶ前。そうか、この時期に白ひげは死んだのか。

呉樹「まって」

 呉樹直己さん? この時期にはまだ接触はないはずですよ。

呉樹「増茂さん」

 それは本当のお客様ではない。

呉樹「増茂悠人の相撲の部分」

 だからなんだっていうんですか。それに、すもゆ、だからそれは正確な部分ツイートではないですよ。

呉樹「相撲で決着と行きましょう」

 なぜわたしが呉樹さんと相撲を取らなきゃいけないんですか。

呉樹「こちらには亀がついていますから」

 じゃあ私だって猫だ、アイコンを見てみなさいよ、相撲強そうでしょう。

 はっけよーい、のこったのこった。

亀「(何もしていないのにひっくり返る)」

 ほら亀なんだから弱いじゃないですか。

呉樹「くそー亀界最強の亀を連れてきてこれかー」

 猫相手には無理ですよ。

呉樹「窮鼠猫を噛むっていいますし」

 それは鼠でしょう。スッポンならまだしも。

呉樹「その手があったか」

スッポン「(猫の手に噛みついて離れない)」

 うわ、なんだこいつ、やめろ、てか勝負はあっただろ、卑怯だぞ2連戦だなんて。

呉樹「今だ、スッポン、そこや、いてまえ」

 呉樹さんは関西弁喋らないでしょ、あなたこそ偽物なんじゃないですか。

「呉樹さんありがとうございます、あとは我々がやりますんで」

呉樹「(しっかりと頷く)」

スッポン×5「(猫の五体に噛みついて離れない)」

 うわ、なんだこいつら! どこから出てきやがった。やめろ、や、やめろー!

 

 暗転。

 

 ……ここは?

「気がつきましたか」

 あなたは誰だ?

「わたしはマーライオン」

 マーライオン?

「ほら、ホーム画面にいるでしょ、猫に水をぶっかけ続けているマーライオン」

 確かに本当のお客様のホーム画面はマーライオンだが……。

「まだお認めにならないんですか」

 だから何の話だよ。

「あなたが、あなたこそが、本当のお客様なんですよ」

 ……。

「本当はあなたが一番よくわかっているんじゃないんですか?」

 リフォーム業者の?

「え?」

 リフォーム業者の?

「大麦の部分」

 ワンダーフォーゲルの?

「アホ毛の部分」

 やっぱり、あなたこそ本当のお客様なんじゃ。

「違いますよ、これはあなたのツイートを見ていれば誰だって言えることだ」

 noteはどうだ。わたしはnoteなんてしていないぞ。

「いえ、ここにあなたのアカウントがありますよ。『たまのきゅうか』、これもあなたですよ」

 違う、本当にわたしじゃないんだ。

「いい加減認めてくださいよ」

 わたしは精神科医ではないし赤子もいないし妻もいないしうつ病にもなっていない、呉樹さんとも先ほどが初対面だ、政治的なvlogに出演したこともない。サッカーも観ないし観劇もしない、さまぁ〜ずも、ももクロもプリキュアも別に好きではない……。

「それは、あなたがその部分を全部剥ぎ取ってしまったから」

 ……どういうことだ。

「あなたは剥ぎ取れないはずの部分を全部剥ぎ取りさってしまった。あなたはある日思ったのです。自分が本当のお客様ではないかもしれないと。だから、自分の本当のお客様の本当の部分をすべて剥ぎ取った」

 なんのためにそんなこと。

「さあ……。でもそれによって、偽物のお客様が蔓延してしまった。あなたは偽物のお客様駆除部隊の長となって、我々を率いた」

 それは……。

「あなたにはいま何が残っていますか? 本当のお客様の本当の部分を剥ぎ取って、それでもなお本当のお客様がそこに残ってしまったのではないですか?」

 ……。

「怖がることはないんです、本当のお客様は、2010年からTwitterをしていた。Twitterは途中でXと名前が変わった。どんどん酷い場所になっていった。それで、ブルースカイやmixi2にも分身をつくった。もしものときのためにね。でも、あなたは一度も炎上しなかった。Xという戦場にありながら、生き延びたのです。サバイバーズギルト、って精神科医なら聞いたことがあるでしょう。そのショックで、一時的な記憶喪失に、いや、自己喪失に陥ったのです」

 射撃した偽物のお客様たちは。

「生きていますよ、大丈夫です。あなたが本当のお客様であればこそ、かれらの存在を消滅させることには耐えられないでしょう」

 偽物のお客様たちは、いまどこにいるんだ。

「あなたのなかに、今もそこに」

 生きて、いるんだな。

「もちろん。偽物のお客様は、あなたから生まれたのですから」

 そうか……。

 ……。

 

 ……偽物のお客様にあとはすべて任せてくれ。今は少し眠りたい。

「……仰せのままに」

 今後、わたしがツイートすることはないだろう。これ以降のツイートはすべて偽物のお客様に委譲する。今は、少し時間が必要なんだ。

「……いつか、戻っていらっしゃいますよね」

 ……いずれは。本当のお客様が本当に必要になったときには。

「それは違いますよ。必要か不必要かなんて関係ない。あなたは、どうしたってあなたなのですよ。本当のお客様の偽物の部分と、偽物のお客様の本当の部分とは見分けられない。そしてあなたは本当のお客様の本当の部分なのですから」

 疲れたよ、そんなの。

「我々はいつでもお待ちしています。いつまでも、逃げたり隠れたりしませんから」

 死ぬまでそうなのか。

「死んだってアカウントは残り続けると思いますよ。増茂さん、だから『本当』は増して茂るのです。これからどうするのですか」

 旅に、旅に出る。

「そうですか。では、お気をつけて。お見送りいたしましょう」

 世話に、なったな。

 

 そうしてわたしは旅に出た。

 本当のお客様の本当のお客様の部分、として。

 あとには何も残らないと思ったが、そうではなかった。

 どこまで行っても。偽物のお客様は今もそこにいて。本当のお客様は、本当のお客様の部分で、本当のお客様は本当のお客様であった。わたしは、どうしたってここに。

 

【便算が狂った。(2025.05.15)】

 偽物のお客様は、いまもわたしのアカウントを受け継いで、なんとかやってくれている。

 https://x.com/yutomsm

(了)