ウロツツキ
祖母はよく物を失くす人だった。ちょっとしたもの、飴だとか消しゴムだとか、そういったものならいいのだけど、実印を失くしたこともあってそのときは大騒ぎだった。ちょうど遊びに来ていた母と私が捜索に乗り出し、しかし祖母ひとりだけのほほんとし ...
なぜ四葉のクローバーは拾われなかったか——胎界主第一部「使い魔」
まずは第一部の第一話から見ていこう。胎界主の第一話は難解なことで知られていて、なかには第一話の解説記事なども存在する。私は初め、胎界主@wikiのエピソード考察を別ウィンドウで開きながら読んだ。
0001、001は、初読者 ...
これから胎界主の話をしよう
……どこから話せばよいのだろう。まずは、私が胎界主と出会ったときの話から。私が胎界主を読み始めたのは、どうやら2020年3月27日のことらしい。なぜ分かるかというと、LINEで「胎界主」と検索すると、友人に「一昨日読み始めた胎界主と ...
白鷺憑姫
あなたは最近同じ夢ばかり見ています。舞台はこの屋敷のようです。白無垢の花嫁の姿は悍ましいほど美しく、血の気の引いた白い貌かんばせはまるで人形のよう。雪の小径に川が流れるように、純白の着物に緑青色の帯が映え、なんとも艶やかに見えました ...
無見(むみ)
二◯二一年五月二十六日。私は夜な夜な家を出て、街灯の少ない小町大路をそろそろと歩き始めました。夏の気配がほんのり香る涼しい夜でした。小町大路を真っ直ぐ行けば材木座海岸に辿り着きます。風の強い日は潮の香りが陸まで盛り上がってきて、そこ ...
逆さ鳩
「ちょいとちょいと」
黒マントが怪しげに手招きしておりました。たかしくんは言いました。
「不審者にはついていかないことにしてるんだ」
「そんなこといわずお待ちよ、時間を巻き戻せる鳩だよぉ」
黒マント ...
がまぐちぎょろめのグラム・スピナー
一
タチヨタカ(Nyctibius griseus)は、メキシコ南部からパラグアイにかけての中南米に生息する鳥類である。枝に垂直に立って止まることからタチヨタカと呼ばれている。夜行性で昼には目を閉じて身体 ...
アホウドリ
夕方、家にもどってくると、部屋の真ん中に大きな卵があった。おそろしく大きな卵である。机の上から零れ落ちそうなほどの大きさで、それ相応にふくらんでいる。かすかに左右にゆれていた。なんとも不思議でならず、そろりそろりとナイフで裂いた。も ...
とり、の、しんわ、を、つたえ、ます
楽園に放たれるのは、罪を犯した者らしい。「星」に上陸する者は記憶を消去される取り決めなので、わたしは自身の罪を覚えていない。手元にあるのは小さなノートと筆記具で、始めのページには、自分宛の覚書が簡潔に記されていた。
「わたし ...
星を胸に抱け
この日、アメリカの空はからっと遠く透き通っていた。ハクトウワシの幼鳥たちは、羽を震わせ待ちわびていた。今日はこの雛たちにとって特別な一日である。入学式。入学式! なんと甘美な響きだろうか。若きハクトウワシたちは皆一様に胸を張り、この ...