シーシャと私
「シーシャ」をご存知だろうか。名前だけは聞いたことあるという人が多いかもしれない。水煙草のことで、中近東で発明されたとされ、その歴史は紙巻き煙草よりも古い。水にくぐらせ濾過された煙草の煙を吸うもので、紙巻き煙草に比べて煙が冷たいのが特徴。そのため気温の高い地域で愛されている。紙巻き煙草と比べると、一度セッティングすると2〜3時間は吸えるというのも大きな特徴である。そのため中東ではコミュニケーションの中心にシーシャが据えられ、煙を囲んで語らいあうなんて光景もよく見られるのだろう(これは想像で書いています)。シーシャ(Shisha)はエジプト語。英語ではフーカ(hookah)と呼ぶ。

見た目はこんな感じ。上の方に乗っているフタのようなものはヒートマネジメントと呼ばれていて、ここに燃焼する炭を乗せる。炭の下、アルミホイルが巻かれているボウル部分にシーシャのフレーバーが盛られている。煙草の葉に香りづけと着色を行ったフレーバーは多くのメーカーから多数の味が出ていて、単独で吸うこともあれば、複数のフレーバーをミックスして味の組み合わせを楽しみながら吸うこともある。円盤は灰が床に落ちるのを避ける目的で設置されていて、その下の柱の部分をステムと呼ぶ。ホースから息を吸うと、ステムから下部の水の入ったボトル部分に空気が送り込まれ、水で濾過された煙がホースを通じて口内に送り込まれる。シーシャを吸うとき、ステムの先端に空いた穴を空気が通っていくので、ボコボコ……と音がする。煙を吸うときの音、煙を吐き出すときに感じる味、吐き出された煙が宙を彷徨う様など、五感をフル活用して楽しめる点がシーシャの良いところだなと思っている。
いつから日本で流行り始めたのか、正確なことはわからないのだが、私が学生だった五、六年前にはすでにシーシャを提供する店は多かった。大学最寄りの商店街にも個人経営のシーシャ屋さんがあって、よく遊びに行っていた。しかしその頃はまだ「こういうのもいいですね」という感じで、今ほどハマっている感じはなかった。私が明確にシーシャにハマったのは、おそらく2024年の6月ごろかと思われる。6月のある一週間、私は突然シーシャに目覚め、5日連続でシーシャ屋に来店するという多動・衝動的行動を実行している。おそらくコンスタントに吸い始めたのはその時期からだ。それ以来、一週間に一度だったものが三日に一度になり、三日に一度だったものが毎日吸うようになり……と今ではシーシャが生活の一部として完全に根付いてしまった次第だ。
シーシャは煙草の一種なので当然害はあるのだろうが、紙巻き煙草より害が少ないと一般的には言われている。ニコチンやタールが一度水で濾過されることで、かなりの量落とされて身体に届くからという説明がよくなされる。研究などがあって裏付けされているのかまではわからない。まだ未知のことの方が多いのではないかと思う(追記:紙巻き煙草と比較してニコチンは同程度、一酸化炭素やタールは紙巻き煙草よりも多いという研究結果があることをフォロワーから教えてもらいました。ニコチン中毒の自覚症状は個人の感覚だと紙巻き煙草より少ないと感じます。これは、紙巻き煙草では一気にニコチンを摂取するのに対して、シーシャでは摂取の時間がゆっくりなのも関係あるのかもしれません。日本語で読めるソースはこちらにあります。http://repo.kyoto-wu.ac.jp/dspace/bitstream/11173/3848/1/0100_078_007.pdf)。私も、初めて行く病院で問診票を書くときに「喫煙されていますか」という項目にどう回答するかいつも悩む。一般的に病院側が想定する喫煙というのは紙巻き煙草の喫煙であって、その後には「一日に何本吸われますか」という質問が続く。シーシャは一度セッティングすると2〜3時間は吸えるもので、しかも持ち運びはできず、紙巻き煙草とはそういうところが少し違う。シーシャ一台で紙巻き煙草を何本吸ったことになるのか、それとも紙巻き煙草一本よりもシーシャの弊害は少ないのか、など何も分からないのでいつも「吸っていない」に丸をつけている。→今後は吸っているに丸をつけるべきなのだろうか……。
元々はシーシャ屋で吸っていたのだが、お店でシーシャを吸うと平均して2〜3000円はかかる。数時間居座れるのでコスパは良いのだが、やはり毎日通えるかと言われると破産してしまう。引っ越しを機に自分でシーシャ一式を揃えた。いまは家で自分でつくって吸うことが多い。6月にシーシャに本格的にハマって、10月には自宅にシーシャ一式が揃っていたので、かなりハイペースでのめり込んでいることになる。ちなみに初期費用としては、シーシャ本体が1〜2万円程度で手に入り(これはピンキリで、あり得ないほど高い台もある。安いものはおすすめしない)、フレーバーや炭、炭を焼くための電気ヒーターなど諸々込みで3万円ほどだったと記憶している。フレーバーは50gで1500円ほどで売っていることが多く、一回あたりのシーシャで使うフレーバーの量は12g程度なので、家でシーシャをすると初期費用を除けば一回あたり400円程度で済むことになる。
シーシャには凝れるポイントがたくさんあるし、変数が多い。シーシャ本体に拘る人もいるだろうし、マウスピース(吸い口)に拘る人もいる。フレーバーも多くのメーカーから様々な味が出ているし、ボトルに入れる水の量、ヒートマネジメントの種類、炭の種類、吸い方、トップ(ボウル)の盛り方、などなどで味が驚くほど変わる。凝り性の人には堪らないほど色々と試行錯誤ができてしまう。ちなみに私はシーシャ台を2台持っている。一台はBYOというアメリカ製の台で、これはシーシャについて何も分からないときに台の感じの好ましさだけで決めた。二台目はオデュマンというシーシャ界では大手のブランドで、トルコ製のもの。


BYOはステム部分が木目っぽくなっているところが可愛くて決めた。小振りで扱いやすい。オデュマンの方はタンクと呼ばれるモデルで、卓上に置けるものがほしかったので二台目として購入した(写真汚くてすみません。近日中に重曹とクエン酸でボトルを洗う予定。ブラシが入らない形をしているのでお手入れが少し大変)。
トップと呼ばれるボウルの部分もこだわることができて、なかには「トップを育てる」という概念もある。陶器製のボウルであれば、使えば使うほどフレーバーの味が染み込んでいくので、洗わずに同じフレーバーだけを吸い続けて「育てる」のである。私はさすがにやっていないが、お店ではたまに見かける。珍しいものでいうと、木製台というのもあり、これもかなり呪術っぽくていい。

ステム部分が木で出来ていて、特定のフレーバー専用にして、同じフレーバーを染み込ませて美味しいシーシャが吸えるようにするというもの。この木製台を置いていた店によると、フレーバーを2kg吸わせることが必要だがまだ1.5kg程度しか吸わせておらず、「育成途中」なのだとのこと。しかも、一番美味しい部分だけ吸わせるために1時間しか起動させないなど、美味しいシーシャをつくるための工夫が凝らされていた。
お店や、こだわりの強い個人などであれば、専用台という概念もある。たとえばパンラズナ(お香のような、東南アジアの寺の空気のような香りがするフレーバー)やツーアップル(ダブルアップルとも。リンゴ味ではないので注意。リコリスとアニスで西洋のリンゴっぽさを表現した独特の味がするフレーバー)、カシミール(同じくお香っぽいフレーバー)などは、香りが強いので洗ってもボウルやステム、ホースから匂いがとれないことがある。そのため、パンラズナを吸う台はこれ、と端から決めておくのである。
水でも遊ぶことができる。ボトルの水は多ければ重い吸い口になり、少なければ軽い吸い口になる。水を入れすぎるとホースから逆流してくるので注意が必要。また、たとえばジュースやお酒を水の代わりに入れるなどすると、煙にその風味がついてまた違った感触が楽しめたりもする。
炭は、多くの場合ココナッツの炭が使われる。キューブ型と、それを半分に割ったようなフラット型が主だ。そのほか、おがくずから作られる炭を使っている店も私は見かけたことがある。炭の置き方や温度帯でも味が変わってくるので、炭はシーシャ調節の際の要だと言っても過言ではない。家シーシャであれば、炭を一度交換するくらいで基本的には放置していることが多いが、シーシャ屋に行くと店員さんが15〜20分間隔で炭交換にやってくることからもわかるように、ヒートマネジメントを一定に保つことがとても大事で、それによってシーシャが美味しく長持ちするのである。
さらに同じフレーバーでもメーカーが異なれば当然味も変わってくる。たとえば、ブドウやレモン、パンラズナなどは多くのメーカーが出していて、とある店では、複数のメーカーの「ブドウ」のフレーバーだけを組み合わせた「ブドウマニア」なんてミックスを用意していたりもする。
このように、シーシャはかくも奥深い。私もその魅力に取り憑かれてしまい、最初は自宅に2〜3個しかフレーバーを揃えていなかったところ、探求心や好奇心に押され、今では60種ほどを買いそろえては日々違ったミックスを試し続けている。

家で作るときは、その日の気分に合わせて、この60種ほどのフレーバーから何を組み合わせるかを決める。さっぱりしたものが吸いたければ、レモン×ライム×ミントなどを混ぜるし、甘いものが吸いたければ、アイスクリームレモン×リンデンティーなど、組み合わせ方は無限にある。私の場合、取り扱うフレーバーは圧倒的にDOZAJ(ドザジ)というメーカーのものが多い。種類も豊富で味も安定しているので、基礎であり奥義でもある、とも言えそうなフレーバーたちである。お気に入りのメーカーはLIRRA(リラ)。リラのフレーバーはどれを吸っても美味しい。イブニングジャスミンという、たしか一年ほど前に新しく発売されたフレーバーがお気に入りだ。
そうして、しばらくは家で一人好き勝手につくっていたのだが、好きが高じて今年6月からシーシャ屋でバイトまで始めてしまった。研修が3回あり、それ以降はワンオペで店を回してねとのことで、あまりにも急展開で緊張したが、昨日初めてワンオペで勤務してみてなんとかなったのでよかった。その研修の際にシーシャのつくりかたをちゃんと教えてもらった。これまでは我流だったものの、そのつくりかたを守るようにしてから家シーシャも格段に美味しくなってほくほくしている。
シーシャは完全に暗黙知の世界で、やればやるほどわかってくるし、感覚で身体が覚えていく。それが私にはとても合っているのだと思う。実践あるのみ、試行錯誤を回してどんどん上達していくというスタイルが私の学習法として一番適したもので、たとえば小説やタロットリーディングなどもそうだと感じる。たとえば今さっきつくったシーシャを吸ってみたときには「これまでの作り方だとフレーバーのポテンシャルを引き出せていなかったので、そのときの感覚でフレーバーを入れてしまうと特定の味が出過ぎてしまう、本当はアイスのフレーバーは半分に減らして良かったな」みたいなことがわかった。昨日のバイト勤務時には「ストロベリーを多めに入れたつもりだったけどオレンジが強くなっているな、オレンジは他のフレーバーを食いやすい(味が特に出やすい)のかも」ということがわかっていった。こういうことの積み重ねでシーシャづくりを日々研鑽していく、というイメージで、それがとても心地よい。一方で、シーシャには理論的な側面もある。たとえば、トップにはアルミを張り、アルミに空気穴を開けてセッティングするのだが、その穴が大きすぎると軽い吸い口に、小さすぎると重い吸い口になるので吸ってみて穴の大きさを調整していくと良い、とか、フレーバー全体に空気を通さないと味が綺麗に出ないので、たとえば吸い始めてから一時間半ほど経ったトップを軽く振ってやるとまだ火が通っていない部分が表に現れてきて再び味の出がよくなる、といったことなどは科学的な対処法だと感じる。火を取り扱うことからして科学的なものであるというのはその通りで、温度を上げたり下げたりしながらシーシャの味を調節するのが基本であることなどからもシーシャは料理と似た科学らしさがある。五感と、科学的な知見と、これまでの経験からなる暗黙知とで総合的につくりあげるのがシーシャなのである。私はシーシャのそういうところがとても好きで堪らないのだ。
偉そうなことを書いてはいるが、私などは全然初心者で、これから学ぶべきことは山積みである。シーシャの味は本当につくる人によって変わってくる。人によって「この人のシーシャと相性が良い」「この人のつくるシーシャはなぜか自分にとっては微妙」といったことが不思議と出てくるのも奥深い。シーシャについては完全に趣味だったのだが、バイトを始めてしまったからには、できるだけ美味しいシーシャがつくれるようになりたい。小説と同じで、やった分だけそれが身体をつくっていく感覚があり、とにかく実践あるのみだなと感じている。一年後の自分の身体や、シーシャづくりの腕は今とは全く異なるものになっているだろうなという予感が私をわくわくさせる。こんな趣味を持てて幸せだなと思う。
以下はおまけ的なもの。初めてシーシャ屋に行く場合に気をつけることなどをまとめている。以前人から聞かれたものを転載した。
Googleマップなどで「シーシャ」と検索して、画像で店内の雰囲気を見て合いそうか決める&レビューもかなり参考になります(実際、星4.8〜4.9の店がほとんどで変なシーシャ屋は少ないのですが、バー寄りのところとカフェ寄りのところと、内輪ノリのところと、ドライなところと、色々あるのでいくつか目星をつけておくことをおすすめします)
初めてならチェーン店でも良いかもしれません
特段気をつけることはありませんが、20歳以上でないと入店できないので、初めてであれば身分証明証の提示を求められることがほとんどです、携帯しましょう
また、初めての方はヤニクラ(というか酸欠。シーシャでヤニクラはブラックリーフとかを吸わない限りあんまならない。酸欠はよくなる、一酸化炭素中毒には注意)を起こしやすいので無理に吸わず、適度に深呼吸などして休み休み吸うと良いです
ニコチンフリーのフレーバーなら、チェーン店に行く方が確実に取りそろえていると思います
注文の際にノンニコチンでと伝えるか、メニューに「ノンニコチンフレーバー」が表示されていればその中からフレーバーを頼むと良いと思います
店によって注文方法は分かれるのですが、メニューにおすすめのミックスが書いてある場合と、店員さんが直接ヒアリングしてそのときの気分にあったミックスをつくってくれる場合とがあります
フレーバーを見て、「これとこれを組み合わせると美味しそうだな」と思ったら店員さんに「ブドウとカシスって合いますか?」などと聞いてみて、自分だけのミックスをつくってもらう…みたいな流れになると思います
もちろんフレーバー単体でも吸えますが、やはりミックス(複数のフレーバーを組み合わせる)をおすすめします、単純にいろんな味がして楽しいので
最初は、フルーツ系のフレーバーが安心かなと思いますが、スイーツ系、ドリンク系、ボタニカル系など色々なフレーバーがあるのでお好みで
(ちなみにダブルアップルはリンゴ味ではなく、リコリス×アニスのフレーバーで独特のものです、玄人向けなのでおすすめはしません)
ちょっと冒険したい場合は「パンラズナ」(お香のかおりがする)とかもおすすめですが、これは店員さんに一度フレーバーを持ってきてもらい実際に匂いを嗅いでみて好みで判断したほうがいいです
初めてである旨伝えれば、吸い方など店員さんに詳しく教えてもらえると思います!
煙草を吸われるかわかりませんが、シーシャの吸い方は煙草とはかなり異なっていて、深呼吸に近いです(スパスパ吸う感じではない)
煙を吐き出すときに味を感じます
シーシャの魅力を伝えたい文章というよりは、今の私とシーシャの関係を文字に残しておきたかったという動機で書かれた文章なので、この文章を読んで皆さんが何を感じるのかまでは私には想像できない。しかし、少しでもシーシャに興味を持ってもらえると嬉しいし、身体をつくっていくもの、暗黙知という観点でシーシャを見てみると面白いのではないかと思うのでそれが伝わるとなお嬉しい。ちなみに私は都内でシーシャ屋の店員になったばかりだが、店を知りたいという人は個別に連絡ください。割引とかは特にないですが、都内でも破格の値段でシーシャを提供しているかつ味も文句なしに美味いので、おすすめの店です。初シーシャにも良いと思う。
以上、現時点でのシーシャと私の関係を書き留めておいた。最後にもう一つのおまけとして、シーシャに合う食べ物と飲み物を一品ずつ紹介する。なぜなのかは私にもわからない。しかし、一緒に吸うとシーシャがとても美味しく感じる。
①キッコーマン 豆乳飲料 チャイティー
https://www.kikkoman.co.jp/products/K58/detail/K581549.html
なぜなのかはさっぱりわからないが、一番シーシャに合う飲み物。機会があれば騙されたと思って試してみてほしい。
②スイカ
スイカとシーシャはなぜかすこぶる相性が良い。『九龍ジェネリックロマンス』で、スイカと煙草は合うと語られるシーンがあるが、原理はそれと同じなのではないかと感じる。
それでは、良きシーシャライフを。ありがとうございました。
ディスカッション
コメント一覧
たいへん分かりやすく、とても参考になりました。
また機会があればシーシャバーに行ってみたいな。
たぶんニコチン有りのシーシャが本当のシーシャなんだろうと思いますが、ニコチンは自分は絶っているので、それは吸えないけど。
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