文学フリマ東京39で買った本の感想①
表題の通りです。
当日のできごとについては上記(有料記事です)にまとめていますが、今回は主に自分の参加した本の感想などを簡単に述べていきたいと思います。なんでこんなことをするかというと私も感想がほしいからです。ギブされたいならまず自分からギブや! というわけですね。しかし全ての感想を投稿できるほどの時間と気力はないので、主に創作について、自分が読んだものについてのみの感想になります。感想を書いていなくても読んでいる場合はあるし、感想を書かなかったものが響かなかったわけではありませんので、どうぞご理解ください。あと、書いていて疲れたので複数回更新にします。今回は、カモガワ編集室『カモガワGブックスvol.5』と反-重力連盟『圏外通信2024 転』の感想を書きました。その他はまた後日。
カモガワGブックスvol.5 特集:奇想とは何か?
論考はどれも力作揃いで、興味深く拝読した。特に千葉集『最近の奇想ゲームについて(主にSteamで買えるやつ)』は、そもそもゲームというものが奇想なしに成り立つものではありにくいという点から指摘していて面白かった。私はゲームをプレイするのが苦手なので例に挙げられたものを実際にプレイできるかはわからないが、紹介されているゲームはどれも面白そうだった。なぜ自分がゲームをプレイすることをこんなにも苦手とするのかいつか整理してみたいが、それはまた別の機会に譲りたい。鯨井久志『なぜ奇妙であることが面白いのか——「奇想とは何か?」試論』は鯨井氏のブログにも同内容(多分、ちょっと加筆とかあるかもしれないけど)が掲載されているのでぜひ読んでみてください。逸脱として規定される性質は名付けられた瞬間に固まってしまう、何度も枠を更新しながら都度独自の運動に徹し続ける営みのなかにしか奇想は見出せないのかもしれない。しかしそれはある程度どのようなジャンルにも言えることであるから、固まったものが形作る奇妙なオブジェの形をまず喜ぶべきであると思う。そうした意味で、この本に載せられた小説はどれもエネルギッシュでよかった。キャサリン・マクリーン(鯨井久志訳)『シンドローム・ジョニー』、めちゃくちゃ不気味だった。発想がキモい(これは奇想小説であるとして見ると褒め言葉であると思う)。この作品の不気味さは、そのままこの世界に人類がうようよと蠢いていることそのものの不気味さであって、生きていることへの後ろめたさ——普段は麻痺して感じなくなっているが常にそこにある——を真正面から突きつけてくる。全体的に嫌な話だが、後味は爽快で、しかしこれを爽快なラストであると断じるには勇気がいる。救世主でもあり死神でもあるという両義性、どちらにも転がり切れないもどかしさこそを何度も噛みしめるべきであり、しかし実験めいた思考をすることそのものに罪悪感を覚えてしまう。よくあるたとえで言うと、魚の小骨のような作品で、読めば最後この読後感を忘れさせてはもらえないという意味で悪魔的な作品である。石原三日月『ハナビラ・オプティミスト』これもなんかすごく嫌だった。嫌だったというのは貶しているわけではなく、タイトルにもなっているハナビラのタカムラがずっと明るすぎて怖いのだ。そして作者は明らかにそれを意図して描いているので試みは大きく成功していると言って良いだろう。ディテールで言うと、トースターが会話のためにパンを買い込むシーンが好きだった。ハナビラ、トースター、軌道エレベーターの事故、と一見つながりがなさそうな要素が実はゆるく結ばれている感じも怖くて、というのもそこには物語的な必然しかなく作中世界では各要素が宙ぶらりんのまま無理やり継ぎはぎされたようにも見えるからで、しかしそういうことが現実世界で実際に起こることを私たちは知っている。一点気になったのは、細かいところだがタカムラを車に貼り付けて運転しているシーンで、タカムラがどこにいるのかわからなかったことだ。「タカムラも飛ばされてしまうだろうか」とあるから、ハナビラは外に貼られていそうな気がするのだが、そうするとタカムラの声がでかすぎるだろということにもなるし、ミクモもいくら苦手意識があるからって元夫を外に剥き出しで貼ってやるなよという気にもなり、そうすると登場人物全員がうっすら怖くなってくる。最終的にタカムラは花筏に加わって海へ出て行くわけで、それはトースターの妻の願った通りの展開ではあるのだが、その全てが解決したようで何一つ解決してないだろという展開がタカムラが明るすぎることでなんかちょっと爽やかに終わる感じとかめちゃくちゃ不気味だった。石原さんは今回の文学フリマでホラーのアンソロジーにも参加されていたので、いま全体的にホラーの時期なのかもしれないと思った。怖かったです。坂永雄一『小さなはだしの足音』、これはすごい作品だった。酉島さんが「坂永雄一の短編集が早く出ないだろうか」みたいなことを言っていたけれど全く同意する。素晴らしい短編だった。なんというか、素晴らしく響いた作品に限って感想が書きづらいという問題はあり、未だにうまく言葉にできていないのだが、稀有で有り難い作品世界を体感させていただいた。はだしの子は、足音がするだけ、不可視の存在だし、コミュニケーションも足型をとる以外には成立していないのだが、それでもとても愛おしく思えた。どうかかのものの生きる世界が健やかなものであってほしい、と思ったが旧人類の世界はほとんど崩壊してしまった、まあ仕方ないですね。かのものたちは遠くへ、遠くへ歩み続けていくのだろうし、それでよかった。それでほんとうによかったと思う。ラストの文章が本当に美しく、こんなに幻想的な文章が書けたらなあとうらやましくなるほどだった。歩行というテーマで何か一本書こうかと思っていたのだが先を越されたのだけ悔しい。それに、こんなに完成度の高いものを出されたらなかなか次の一歩を刻みつけるのは難しい。今年読んだ小説のなかでもかなり上位に好きだった。
ちなみに藤井は第2回カモガワ奇想短編グランプリ優秀賞の『幽玄の惑星』を載せていただいています。構成的にほぼラストを飾らせていただく形になっており恐縮しています。気に入っていただければ幸甚です。
圏外通信2024 転
こちらも、戯曲『アクト彗星』で参加させてもらった、反-重力連盟のSFアンソロジーになる。簡単に各作品の感想を。佐久間真作『死を回避する昆虫について』、なんとかネタバレなしで読んでもらいたいので詳しくは述べないが、面白い。佐久間さんは前作でも日誌みたいな形式の小説を書かれていたと記憶しているのだが、この形式が好きかつ得意なのだろうなと感じる。打ち消し線の効果が最大限に引き出されていて、細かい点ではそうしたところも好きだ。この人の卒業論文がどうなるのか心配で仕方がないが、本人はやる気があるのでよしとする。それにしても、先輩から託された段階ではまだ虫はそんなに変化していないので一定期間放置すると退行する可能性も多少あるのか? という点が気になる。しかしもう色々と手遅れな気もする。サクッと読めて楽しめる、冒頭を飾るに相応しい作品だと思う。赤草露瀬『帝都逓信電奇譚・序ノ幕』、章のはじめに掲載されているイラストから着想を得た作品とのことで、雰囲気が抜群に良い。雰囲気としては文豪ストレイドッグスに近いがサイバーパンク要素も入っている。これからどんどん強キャラがインフレして出てくるんだろうなという感じが楽しい(序ノ幕なので実際に登場する人物は少ないが)。ぜひ続きが読んでみたい。ルビが全部カッコいいし、擬古文調が巧みだ。読むだけで気分が高揚するので、わりと意味分からん拙作の次にこの作品が据えられているのはかなり心強くもある。庭幸千『見えざる盲管』、庭さんはずっと穴の話を書いていてそれが既に面白いのだが、今回も巨大な穴と同居するほのぼのエッセイを寄せており力強い。日常が淡々と綴られるこの物語を読んでいるうちに、穴のある生活、また穴に引き寄せられること、穴に執着することそのものに搦め捕られそうになり恐ろしい。喃語というバンドがいるのだが、私は庭幸千の作品を読むとき喃語の曲を思い出す。まさに最近「穴」という曲が発表されているが、
喃語の楽曲で、より一層この作品の感慨を連想させるのは、正六万五千五百三十七角形のほうかもしれない。奇しくも庭幸千も喃語も札幌にゆかりがある(下の動画で演奏されているし各種サブスクにもあるのでぜひ)。
巨大健造『本物の(ちくわ)ロマンチスト』、面白かった。非常に巨大さんらしい作品。めちゃくちゃ爽やかに終わるのが良い。魂の高揚感が、今までの文章がすべて前フリだと言わんばかりに炸裂する。会話もノリノリで書かれていることが伝わってきて読んでいて嬉しくなってくる。タイトルが良い。実は改題前のタイトルも知っているのだが、断然良くなっている。アクション書けるのうらやましいなと思う。これについては私の今後の課題です。私は純粋に巨大健造作品のファンなので、この作品がもっと広く読まれてほしいと願って止まない。xcloche『楽園在住』、トリを飾るに相応しい作品。きっと私たちの根源に存在する「忘れられたくない」という欲求をここまで美しく描ける舞台もなかなかないだろうと思う。終わり方というか、最後の一文がとても良くて、今回私が書いた『アクト彗星』とオーバーラップする部分もあるな(ブロッコリーにも鳥にもなれなかった人間たち)と個人的には思うし、一冊通しで読んでもらったときに最後この作品が来るの本当に良いと思う。反-重連の人たちは、けっこう自分のなかの書きたいテーマが定まっていて、それを繰り返し手を変え品を変え語り直しているように思えて、そうした意味で既刊を読むと新刊もより一層楽しめると思う。
今回は一旦ここまで(というかまだ他が読めていないのだ)。自身が寄稿したもののなかでは、星々vol.6と改行vol.2の感想は書きたいと思っている。できれば年内に「文学フリマ東京39で買った本の感想②」を更新できればいいなと思う。ここまでお読みいただきありがとうございました。
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