文学フリマ東京39の藤井佯参加情報
表題の通りです。

小説家の藤井佯(ふじい・よう)です。鳥の神話を伝えています。今回の文学フリマ東京39では、既刊も含めると7冊に参加させていただいたことになるので、それぞれ紹介記事を書きたいと思います。
まず、文学フリマ東京39について簡単に。
文学フリマは「作り手が「自らが《文学》と信じるもの」を自らの手で販売する、文学作品展示即売会」です。以下概要。
開催日:2024年12月1日(日)12:00〜17:00
入場料:1000円(事前に一般入場チケットが販売されています。当日券もお買い求めいただけます)
会場:東京ビッグサイト 西3・4ホール
公式サイト:https://bunfree.net/event/tokyo39
一般入場には1000円の入場料が発生し、事前に一般入場チケットがe+にて販売されています。今回は2306団体の出店があるようで、かなり規模の大きい催しになります。
基本的には、各団体が各々のブースを設営し、そこで「自らが《文学》と信じるもの」を販売します。電子決済に対応している団体はそこまで多くないので、現金を多めに持っていっておくと安心です。また、人が多いため体力が必要なイベントではあります。通販に対応している団体も多くありますので、気になった本があればまずは公式SNSなどを訪問してみてください。このサイトでも、通販がある場合はなるべく記載する予定です(情報が出そろい次第更新していきます)。
それでは、今回藤井が参加する本の紹介を順番に行いたいと思います。
カモガワGブックスvol.5 特集:奇想とは何か?(つ-13)
鯨井久志さん、空舟千帆さん主宰の海外文学&SFレビュー同人誌『カモガワGブックス』の第5巻です。今回は「奇想とは何か?」をテーマに奇想小説やコミック、映画のレビュー&論考、新作奇想短編、カモガワ奇想短編グランプリ受賞作品などが掲載されます。
藤井は、第2回カモガワ奇想短編グランプリにて優秀賞を受賞した関係で、受賞作『幽玄の惑星』を掲載していただきます。佐渡島の朱鷺たちが、世阿弥の霊から能を教えてもらい舞い踊るという話です。実際に能を観に行き、小説において舞をどのように描写できるか考えてつくった作品で、個人的にもかなり気に入っています。鳥が踊ると嬉しい! 選評において主催の鯨井さんから「最後の舞の圧倒的なヴィジョンや弔いの舞を踊る箇所のエモーションを描き出す筆力はすばらしく、一級の幻想小説であるといえよう。これに何の賞も贈らないのは小説に失礼だ」と評していただき、恐縮しつつもめちゃくちゃ喜んでました。エモい鳥、エモい星! かなり、今までの藤井の集大成といった趣のある作品です。ぜひ読んでください……!
書きだしちょこっと載せ。
花の群生地だった。佐渡某所、遠くからたぁ、たぁ、と鳥の鳴き声が聴こえる。奥には巨大な曲がり松が浩々と聳え、突き抜ける空を一身に抱きとめている。手ごろな岩があり、男はしばし休憩と腰を落ち着けた。道に迷った。なぜか地図アプリが起動しない。
「もし」
そこに声。見ると松の下に老人がいる。男は驚いた。先ほどまで人影など見えなかったはずだ。
「あなたはここの人ですか」
「いかにも」
「道に迷ってしまったのです」
「其方も流刑か」
返答に詰まる。流刑、とはどういうことか。佐渡が流刑地であったのは何百年も前のことである。
ブース:つ-13
価格:1500円
カモガワGブックスは通販があります。
自家通販(BOOTH):https://hanfpen.booth.pm/items/6258201
CAVA Booksさん:https://cavabooks.thebase.in/items/94432723
星々vol.6(な-01〜02)
小説家のほしおさなえさんと星々事務局スタッフが運営するオンライン文芸コミュニティ、hoshiboshiの文芸誌です。新刊の「星々vol.6」は、「本をつくる」をテーマにしています。藤井は、第3回星々短編小説コンテストにて佳作を受賞した関係で、受賞第一作『鴉幀日誌』を掲載いただいています。本書には、藤井と同じくコンテストにて受賞した桃澤うみさん(10000字部門正賞)、長尾たぐいさん(5000字部門佳作)の受賞第一作も掲載されます……! 楽しみ。主宰者のほしおさなえさんのツイートを引用します。
「興味深かったのは、3人とも本をなにかの命が凝縮されたものと捉えているように感じられたこと」とのことです。
藤井の作品『鴉幀日誌』は、カラスの死骸から本がつくられる世界の物語です。新米の鴉製図書管理官である天野莉々と相棒のハシブトガラス・クロウリーが触れた、鴉製図書の歴史の一端にまつわる悲劇とそれに抗った人物の物語になります。個人的には、ここまでエンタメ性に振った作品を書くのは、自分にしては珍しいと感じています。ジャンルとしてはファンタジーで、けっこう起承転結がしっかりした話になりました。感想をいただくのが非常に楽しみな作品です。
書きだしちょこっと載せ。
湯から引き上げたそれはてらてらと黒光りして、艶のある羽根は簡単に手で抜くことができる。その物体に命はない。しかし、それを形づくるすべての構成物に魂が宿っている。天野莉々は一度その物体の前で手を合わせたのち、カラスの死骸から一本一本そっと羽根を解いていった。この瞬間はいつも緊張する。一本ずつ羽根を抜き取り、水気を切って開いていく。漆黒の中に複雑な色彩を湛えた唯一無二の羽根が、一枚、また一枚と机の上に花開いた。美しい死体だと思う。片翼を広げて濡れた羽根を仕分けていくこの作業が莉々は大好きだった。初列風切羽根を一本ずつ並べていく。それらは夜の海のように静かで、莉々はこの羽根とともに夜明けを待ちわびる。そっと羽根の先を撫でると、ちりちりと星が弾け、辺りに神聖な空気が充満した。
文学フリマ東京39での頒布価格は1600円、通販での価格は1650円になります。
ブース:な-01〜02
通販:https://hoshiboshi2020.stores.jp/items/6735d3eba7ffd4034701374a
改行vol.2(せ-20)
詩と小説のハイブリッドを標榜する新文芸ジャンル「ヴァース・ノベル」の専門誌です。タイトルにもあるように、改行しまくっています。詩と小説の本質的な違いを問い始めると袋小路に陥りますよね。「改行」はvol.1が「詩特集」、vol.2が「小説特集」となっており、主宰の東堤翔大a.k.a岸田大による論考が巻末に収録されています。これを読めば、日本の近代文学が歩んできた歴史を概観できるとともに、なぜ今「ヴァース・ノベル」なのか? という問いにひらめきが生まれるかもしれません。
藤井はもともとこの雑誌のファンで、一読者として前回の文学フリマにて『改行』を購入し、読み終えて興奮して思わず「自分、ヴァース・ノベルやれます! やらせてください!」とツイートしました。すると本当に連絡が来て、第二号にヴァースノベルを寄稿することになりました。マジでやりたいことはやりたいって言った方が良いマジで。
藤井は『鳥たちの言葉』というヴァースノベルを寄稿しています。まだすべてがおおらかだった頃の話、鳥たちと人間との邂逅の瞬間を描きました。この作品には参考文献というか、インスパイア元がけっこうあり、それも含めてお楽しみいただけると嬉しいです。本当に書くの大変だったよ! けっこう目で見てそのまま楽しめる作品だと思うので、気負わずに読んでください。そう、ヴァースノベルは小説よりもするする読めてしまうものなのです。それって今の時代とっても重要なことです。ぜひ、新しい文芸ジャンル「ヴァース・ノベル」を体感してください!
書きだしちょこっと載せ。
客人を迎えたのはいつぶりでしたでしょうか。かのひとは夜中、鳥たちの寝静まったころを見計らってやってきました。奇妙な外套に身を包み、夜の空気をめいいっぱい取り込みながらこちらへと歩を進める調子は羽のように軽く、とらえどころのない印象を覚えました。そしてバルコニーに椅子を二脚だし、水煙草を囲んだのです。二つのホースで一つの煙をわけあい、頂上に置かれた椰子の炭はちらちらと星空に呼応してまたたきました。客人は語り部でした。そうして、語り部は遠い昔のできごとについてこのような話を語りました。
ブース:せ-20
価格:不明(続報を待て! ちなみにvol.1は500円です)
通販:既刊(vol.1)は通販があります。いずれvol.2も対応するかも。https://yanguhausubooks.booth.pm/items/6097607
圏外通信2024 転(き-20)
「いつか重力によって奪われたものを取り戻す、そのための暗躍。」を標榜する反-重力連盟に、新加入しました!
それで、新刊である『圏外通信2024 転』では、作品を掲載いただくとともに巻頭言を担当させていただきました。
藤井は今回、戯曲を提出しました。エーッ。初回からかましすぎやろ! と思われた方、すみません。かましました。藤井は2024年3月にAAF戯曲賞関連プログラム『戯曲/演出集中キャンプ』に参加いたしまして、そこから戯曲へも興味が湧いたという経緯があります。しかし、反-重連に向けての作品を書くにあたって自身の中から戯曲が出力されたことには自分でも驚いていて、普通に小説を書こうと思っていたのに気づいたら目の前に戯曲がアウトプットされていた、という摩訶不思議な体験をしたわけです。
というわけで、戯曲『アクト彗星』を寄せています。4000年に一度巡り合う二つの彗星たちが宇宙を舞台にアクトする、その一連の記録となります。かなり面白いです。とても楽しく書けました。ただし、藤井佯初心者向けではないかもしれません。でも、この戯曲から入って他の小説も読んでくれる人が現れたら、とっても嬉しいな……と思います。
書きだしちょこっと載せ。
[前口上]
わたしたちは、おんなじところをぐるぐるぐるぐる。
なんどもなんどもぐるぐるぐるぐる。
でもそれだけじゃないんです。
それだけじゃあ、ないんです。
[0]
彗星A よっす
彗星B よっす
彗星A ちょっと削られた〜!(太陽で)
彗星B 行ったんか、太陽系、行ったんか
彗星A 地球という惑星に大せっ近したとき
彗星B おん
彗星A 鳥を見つけたのです!
ブース:き-20
価格:1000円
通販:このページにいずれ追加されるはずです。創刊号の巻頭言がアツいので、サイトに飛んでみてください。
https://hanjuren.booth.pm/
水平線vol.1(い-03)
うみべひろたさんが主宰となり、「自分の作品を、印刷された本として読める嬉しさを全員で味わおう」をコンセプトに設立された文学賞、水平線短編大賞の応募作が全編収録された冊子が『水平線vol.1』です。4000字以内の作品が募集され、第1回のテーマは「光」でした。藤井は『あなたは光』という掌編小説を寄稿しています。
https://note.com/horizontal_pb/n/n8743b3f66c85
最終候補までは残ったようです。嬉しい。今回は、サンコウチョウという鳥とアイドル、そしてそれを推す語り手の話を書きました。選評のnoteが非常に丁寧で感動したことを覚えています。こんなに真摯に作品を読み込んでくれるのか、と思いました。書き手にとっては一番嬉しいことですね。
さらに嬉しかったのは、この水平線短編大賞にて大賞を受賞したのが榊さんという方なのですが、この方は以前藤井が編集を務めたアンソロジー『沈んだ名 故郷喪失アンソロジー』にも寄稿されている神木さんになります。また、最終候補に犬山昇さんも残っていたのですが、こちらも同様に故郷喪失アンソロジーにご寄稿いただいております。故郷喪失アンソロジーにご参加いただいた皆さんは各所でご活躍されていて、主宰者としても非常に嬉しい限りです。
書きだしちょこっと載せ。
次の電車は四時間後らしい。無人駅は緑に侵食されている。切符を入れる小さなポストも蔦に覆われてすぐには見つけ出せない。電車で三時間。次第に山がちになる車窓を眺めていたらあっという間だった。一ファンとしてこんな出過ぎた真似をと躊躇する気持ちもあったが抑えられなかった。
ここが、星野アオイの生まれた場所だ。
星野アオイ。地下アイドル「ツキヒホシ」のリーダーだった。過去形なのは既に解散しているから。かねてより事務所の黒い噂は絶えなかったが、スタッフのセクハラやアイドルたちの劣悪な労働環境を企業ぐるみで隠していたことが明るみに出るや否や事務所は蒸発。所属アイドルは解散を余儀なくされた。「ツキヒホシ」ファンはグループの存続を望んだが、星野アオイは「解散」をきっぱりと告げた。ファンの厚意によって実現された解散ライブでの発言が忘れられない。
「わたしたちは、三つの光。どこにいても、必ずわたしたちを見つけて」
価格は300円。
ブース:い-03
通販:実施予定(URLわかり次第更新します)
占球儀(B-59)
https://note.com/shigo_to/n/nea6dc3dc598c
古くからある喫茶店などで、ルーレット式おみくじ器を見たことがありますか? 自分の星座の書かれた場所から100円玉を入れると、小さく丸められたおみくじが落ちてきて、さらにルーレットで自身のキーワードもわかるという優れものです。今回、故永しほるさんが主宰となり、ルーレット式おみくじ器に59人の書き手による一行詩を収録した「詩集」である『占球儀』が発行されます。文学フリマ東京39以降も、故永さんが参加されるほかのイベントでも設置されるそうです。また、イベントがない期間は以下のお店に常設されるとのこと。
・俊カフェ(北海道札幌市中央区南3条西7丁目4 KAKU IMAGINATION 2F)
谷川俊太郎さん公認の「私設記念館」のようなカフェ
・がたんごとん(北海道小樽市塩谷2丁目41-5)
「生きるための道具と詩歌」をテーマに箒と詩歌を扱うお店
藤井は90字程度の自由詩を寄稿しました。企画趣旨を見た瞬間「なんて素敵なんだ!」と溜息が出ました。すぐにご連絡をとり、ありがたくも参加させていただけることになりました。59名の方が参加されていますので、藤井の詩にあたる確率は59分の1になります。参加者の顔ぶれが豪華ですし、素敵な企画なのでぜひ一篇の詩を手に入れにきてください。
ブース:B-59
価格:100円
故郷喪失アンソロジー(L-04)
最後に、藤井が編者を務めた故郷喪失アンソロジーについて簡単にご紹介します。詳しくは上記の記事にまとめたのですが、「故郷喪失アンソロジー」とは、「故郷喪失」をテーマに書かれた全13編の小説・エッセイと、それらをふまえて書き下ろされた論考1編を収録したアンソロジーです。「故郷喪失」とは一体何なのか、なぜいま「故郷喪失」を語るのかという問いに真摯に取り組んだ選りすぐりの作品が揃っています。制作にあたってクラウドファンディングを活用し、支援総額358,800円(目標達成率119%)を達成し、101名から支援を受けた話題作です。
A6(文庫本)サイズ、258ページ、1500円です。
本企画においては、2024年の1月末から3月にかけて公募を実施し「故郷喪失者であると自認するもの」と応募条件をあげたうえで作品を募集いたしました。全部で34編のご応募をいただき、その中から12編を採用、藤井書き下ろしのエッセイと論考を合わせた全14編を収録しております。
藤井が普段書いている「鳥の神話」を伝える物語とは打って変わって、この本では非常に私的な話をしています。また、その他の作品に関してもジャンルは様々ですがどれも自身にとっての「故郷喪失」とは何かに迫った切実な作品ばかりです。
藤井は文学フリマ東京39に、呉樹直己さんのブースの売り子として参加します。
呉樹さんの頒布される『増補 クィアネスとメンタルヘルスのアイデンティティ・ゲーム』についての情報は上記の記事をご参照ください。藤井も読みましたが、大変に興味深い、いま必要とされている本であると感じました。
さて、売り子をする関係で、呉樹さんのブースで『故郷喪失アンソロジー』を販売させていただくことになりました。10〜20部程度持っていく予定です。ただし通販もございますのでご無理はなさらないよう。どちらにせよ、もっと広く読まれてほしい本ですので、これを読んでいる皆さんのお手元に『沈んだ名 故郷喪失アンソロジー』が届いたならば、非常に素敵なことだなあと思います。
ブース:L-04
価格:1500円(通販では1650円)
通販:https://yo-fujii.booth.pm/items/5739978
ぜひ、当日はお手にとってご覧ください。
おわりに
ここまで紹介してきた本をまとめます。
①カモガワ編集室『カモガワGブックス vol.5 特集:奇想とは何か?』(つ-13)1500円
②hoshiboshi『星々vol.6』(な-01〜02)1600円
③やんぐはうす-ヴァースノベル研究部会『改行vol.2』(せ-20)500円〜1000円?
④反-重力連盟『圏外通信2024 転』(き-20)1000円
⑤水平線文庫『水平線vol.1』(い-03)300円
⑥文芸同人「北十」『占球儀』(B-59)100円
⑦呉樹直己(藤井佯売り子)『沈んだ名 故郷喪失アンソロジー』(L-04)1500円
全部買ってくれる人とかいるのかな……いたらめちゃくちゃ嬉しいな。でも多いので無理はしないでください。どの作品に興味を持ってもらえても嬉しいし、どれを手に取っていただけても舞い上がります。正直なところ、創作をやっている人全員がそうだと思うんですけど、受け手の顔が決して見えるわけではないので、買ったよ〜という報告だけでめちゃくちゃ嬉しいです。さらに感想までいただけるとなったら、もう、ね……。それにしても、どれも良いんですよ……私も献本を受け取るのが非常に楽しみです。後にも先にも、こんなにたくさんの作品に参加させていただける文学フリマはないのではないかと思うので、12月1日を楽しみにしています。
では、ぜひ文学フリマ東京39でお会いしましょう!
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