星々文芸博に参加しました
表題の通りです。
https://www.hoshiboshi2020.com/%E6%98%9F%E3%80%85%E6%96%87%E8%8A%B8%E5%8D%9A
星々文芸博は、星々事務局が主催する「創作物即売会+トークイベント+ワークショップ」のてんこもり文芸イベントです。2024年7月14日(日)に浅草橋・東京文具共和会館にて開催されました。
私は、同じく星々事務局が主催する「第3回星々短編小説コンテスト」にて佳作を受賞しまして、その関係で星々文芸博にご招待いただきました。
当日のスケジュールは下記の通りでした。単独参加となりましたので、私がブースを留守にしている際は星々スタッフの方が店番をしてくださり、非常に助かりました。
11:30 開場
11:30〜12:00 ブース「鳥の神話」にて店番
12:00〜13:30 星々短編小説コンテスト合評会を聞く
13:30〜14:50 ブースにて店番
14:50〜15:20 コンテスト副賞のリングノートづくり、ブースを少しだけ見て回る
15:20〜16:00 星々贈賞式に参加
16:00〜16:30 ブースにて店番
16:30 閉場
18:30〜20:30 懇親会
10時開場でしたので、9時50分ごろに現着しまして受付を済ませました。本などのかさばるものは事前に宅配便にて会場に送ることができました。入場してすぐに設営を始めます。
なんだかんだ30分程度で設営が完了してしまい、一時間暇な時間ができてしまいました(ここは人と設営の複雑さによると思います)。本日店番をしてくださるスタッフさんと顔合わせをしまして、あとはヴァース・ノベル「改行」の岸田さんがご挨拶に来てくださったりと嬉しい展開がありつつ、開場を待ちました。
11時半になり、開場。当然ですが文フリほど長蛇の列ができるということはなく、ゆったりとした時間が流れました。しかし最終的にこの時間帯が一番売れ行きがよかったので、やはり開場とともに入場される方はあらかじめ購入するものを決めていらっしゃる方が多かったのかもしれません。星々短編小説コンテストの5000字部門(私は10000字部門です)にて佳作を受賞された長尾たぐいさんがご挨拶に来てくださいました。差し入れまでいただいてしまい恐縮。そうこうしていると12時が近づいてきたので、スタッフの方にブースを任せてトークイベント会場である5階に移動しました。
星々短編小説コンテスト合評会は、歴代のコンテスト受賞者の糸川乃衣さん、なごみさん、貝塚円花さん、蓮見さんとポプラ社の森潤也さん、星々事務局長の江口穣さんが登壇し、第3回星々短編小説コンテスト受賞作3作について合評するという、私にとっては「ご褒美すぎない?」と思うような贅沢な時間でした。まずは自己紹介があり、その後、登壇者が順番に3つの作品について感想と講評を述べる時間があり(この時点で70分が経過)、その後合評がありました。受賞作3作は星々サイト上で期間限定で公開されており、感想や質問をお送りいただけるようになっていたのですが、最後に読者からの感想と質問が共有され、それに作者として回答する時間もありました。皆さんかなり視点が異なっていて面白かったです。3作品ともわりと、テーマであった「地図」というものに対するアプローチが異なっていて、それにまつわる評価や、ドラマや構造についての評価、細部の描写に対する評価など、様々なフィードバックを得ることができました。自作だけでなく、ほか二作についての合評を聞けたのも参考になりました。私の作品は「砂に刻まれるものたちへ」といって、鳥たちが砂漠のうえに作り上げる地上絵(人類はそれを地図に見立て「マパ」と呼んでいる)の研究に一生を捧げた学者と、彼女に会いに地球の裏側からやってきた語り手の交流(をもとにマパの壮大さ)を描く、という内容でした。講評では「物語において鳥は人間を書く道具として使われがちだがこの作品はそうではなく鳥そのものを描こうとしている」「現実に存在するのではないかという架空の国や人物の具体性が素晴らしい」「自然の雄大さと人間の営みの小ささの対比が効いている」などの絶賛をいただきました。一方、星々vol.5(この短編が掲載された雑誌です)の、ほしおさなえさんによる講評にもあった通り、「人間の物語が弱い」という指摘もあり、実際この作品は佳作止まりとなっています。この点に関しては「起承転結の転がない」「学者の描き方を変えることでもっと人物に奥行きが出せたのではないか」「スケールが大きい話なので中編や長編で読みたくなる」といった指摘がありつつ「この作品のテーマを考えると人間の物語はなくてよい」「あえて人間味についてこういう表現をされているものと捉えた」という意見も出まして、聞いているこちらとしては非常に楽しかったです。私個人としては、星々vol.5掲載の講評を読んだとき納得感はありました。作品を読み返してみると、学者と語り手の会話は「情報を提示・交換する」レベルに留まっており、作中で一方の発言によって一方が心を動かされる、といった動きを十分に描ききれていない印象を受けました。しかし、元から自分の作風として「人間味の薄いものを描きたい」という特徴があり、今回も「学者と語り手には共通点もあるし、きっと会ってすぐに互いを理解しただろう」「人間ドラマは特別書きたいものではない」と思いながら書き上げたところもあります。懇親会の際に糸川さんともお話ししたのですが「この世界には人間の物語が多すぎる」ので、そうではない存在たちの物語を増やそうとしている、というところもあります。
人間ドラマの問題は、おそらく構造や構成を工夫することで改善できると現時点では考えています。見せ方の工夫と言いますか。いま私の関心は「人間以外、特に鳥の物語を書く」ことにありますが、その点と「人間のドラマを書く」ということはある程度両立させられるのではないかと感じています(もちろん、人間のドラマを書きすぎてしまうとそれ以外の存在が舞台装置になってしまう危険性はあり、それは絶対に避けたいことなので、優先順位としては「人間以外の物語」を実現するということのほうが高いです)。多くの学びと課題を受け取った合評会でした。
質疑応答では「マパをmapaと綴るとすると、map+aで名詞としては女性的な印象を受けます。語り手が会いに行く学者のミルへが女性であるのと相まって、女性が何かを作り出し、それを読み解くという構図があるように思えました。そういった意図はどこかにありますか?」という大変素晴らしい質問をいただきました。mapaという言葉は、スペイン語の「地図」を表します。もともと、ナスカの地上絵をモデルとしていたのでスペイン語のmapaを採用したのですが、採用当初は私も「女性名詞っぽい」と思いながら取り入れていました(あとから実はmapaは例外的に男性名詞であると知るのですが…それは別の話です)。語り手の性別は明記していませんでしたが、女性のイメージでつくりました。また、語り手と学者の世代がかなり離れているというイメージも私の中では重要でした。質問にていただいたイメージはまさに制作時点で存在しており、同時に語り手とミルへの共通点についても考えていました。二人は、ときたまその意図や熱意が周囲から理解されがたいほど、関心の赴くままにとことん行動する積極性と強さを兼ね備えています。今回は、人智の及ばないものや他者からは理解されづらいものに情熱をひたすら傾け続けていたら、結果的にそれがどのような形であれフォロワーを生みだすという、そうした女性の姿が描きたかった旨を回答しました。語り手が学者にシンパシーを抱いているのは間違いないと思います。
合評会は無事に終了となりました。企画してくださった星々事務局の皆さん、的確なフィードバックをくださった登壇者の皆さまに感謝してもしきれません。
またしばらく自分のブースにて店番をし、同じく出店者として参加している江古田さんに差し入れをいただいたり、ぽつぽつ品物が売れて行ったりしながら店番交代の時間になりました。今回、コンテスト受賞者には副賞として「オリジナルリングノートづくり」の体験が送られるということで、嬉々として体験ブースに赴きました。
つくったリングノートはこちらです。
表紙は、受賞作が掲載されている雑誌の表紙イラストを厚紙に印刷したもので、これがとても素敵です。中身は紙の束の中から自由に決めてよいということで、ノートとしての役割を放棄したかのようなやりたい放題のノートをつくることができました。チェック柄の和紙や、クレーターのような凹凸のある厚紙、光沢のある紙など見ているだけで楽しいノートになりました。裏表紙も自分で決められたのですが、迷わず鳥柄にしました。
そうして、少しだけ時間に空きができたので贈賞式が始まるまで、ブースを慌ただしく回ることにしました。オカワダアキナさんの『庄野潤三「五人の男」オマージュアンソロジー 任意の五』を手に入れることができて嬉しかったです。そのほか、『故郷喪失アンソロジー』に寄稿いただいた湊乃はとさんの小説や、江古田煩人さんの小説を購入しました。なかなか時間に余裕がなく、すべてをじっくり見て回ることはできなかったのですが、どのブースも素敵な気配に溢れていました。
贈賞式では、ほしおさなえさんから直々に賞状を手渡していただきました。一言挨拶を求められ、全く考えていなかったので何を言ったのか覚えていません。「鳥の神話を伝えます」ということはとりあえず言った気がしますが、お礼の気持ちを十分に伝えられたかどうか不安です。贈賞式では他にも「言葉の舟」刊行記念の140字小説コンテストの受賞作や、季節の140字小説コンテストの受賞作も表彰されました。140字小説の良いところは、すぐに読めるところ、場所をとらないところだなと改めて思いました。私の書いた作品なんかは10000字程度あるわけで、そうすると表彰式などでも「この作品が受賞しました」と作品全体を共有するわけにはいかないのですが、140字小説は「この作品が受賞しました」とスクリーンに映しだすことができるし、その良さがすぐに伝わるという利点がある印象を受けました。どの作品も広がりがあり、言葉のもつ圧縮という作用を自在に活用していました。一方で、「限定された字数のなかでこれだけの広がりを生み出せる」という評価軸が大きな力を持ちすぎると予後が悪いだろうなという予感もありました。140字小説ならではの評価軸の発見が今後より一層求められていくのだろうと感じ、それは明るく、良い話だと思いました。
再びブースに戻り、最後の30分店番をします。やはり文フリと比べると圧倒的に売上が出ないですが、文フリと比べる意味はないというか、規模も目的も大きく異なっているので、今回はこれでよかったなと思いました。そもそも私を知らない人がほとんどだったと思いますし、チラシはかなりの数捌けたので、これをきっかけに知ってもらえたら嬉しいです。無名の状態から本を売り上げることの難しさを思い出しました。初回開催であるということもあり、どの程度数が動くのか読めなかったので多めに刷ったのですが、かなり余ったので今回出店した本についてはあとで宣伝させてください。
撤収作業を済ませ、近くのカフェで時間を潰し、懇親会会場のホテルにやってきました。会場では主に受賞者3名で固まっていることが多かったです。森さんとお話しして、ちょろいので「ポプラ社新人賞、出したい…!」と思いました。ポプラ社新人賞は全部署で最終候補作を読むらしく(正直編集部だけかと思っていた)、最終候補に残れば森さんにもお読みいただけるということで、やる気が出ました。桃澤さんは、会話の節々から「この人ちょっと変だ!(良い意味で)」ということが滲み出ていてよかったです。筆名の由来が面白かったです。長尾さんからは「実はあの質問は私です」と言われ驚きました。また修士で研究していたという分野の話が非常に面白くて、論文読みたい!と思いました(英語らしいです、頑張らねば)。途中からは糸川さん貝塚さんのテーブルに混ぜてもらい、「人間の物語多すぎ!」と言い合っていました。お互い動物を描いているけれど細部を見ると描き方が異なっているよねという話もあり、興味深かったです。あずきの話をしていた際に「このテーブルからは高尚な香りがするわね」とほしおさんがどこからともなくいらっしゃり、「全然高尚な話じゃなくてあずきの話をしていました」と返す一幕がありました。談笑するなかで「もっと読むこと、批評することも大切にしていきたいから、歴代受賞者が次の受賞者の作品を読んで評するというサイクルをつくりたい」というお話があり、それは良いことだなぁとぼけっと聞いていましたが、よく考えたら次は私が第4回の受賞者の作品を講評しないといけないってことか!と気づきシャキっとしました。なんとか頑張りたいと思います。
そんなこんなで全ての行程が終わり、再会を願って帰路に着きました。非常に楽しく、濃密な時間を過ごさせていただきました。一からイベントを作り上げるのは本当に大変なことかと思います。星々事務局の皆さん、スタッフの皆さん、ほしおさん、改めてどうもお疲れさまでした。ありがとうございます。
最後に、星々文芸博にて出品した本の宣伝です。BOOTHでも販売しているので、この機会にぜひお手にとっていただきたいです。
https://yo-fujii.booth.pm/items/5739978
「故郷喪失」をテーマに書かれた全13編の小説・エッセイと、それらをふまえて書き下ろされた論考1編を収録したアンソロジーです。「故郷喪失」とは一体何なのか、なぜいま「故郷喪失」を語るのかという問いに真摯に取り組んだ選りすぐりの作品が揃っています。 制作にあたってクラウドファンディングを活用し、支援総額358,800円(目標達成率119%)を達成し、101名から支援を受けた話題作です。
故郷喪失アンソロジーについてはこちらの記事もご覧ください。
https://yo-fujii.booth.pm/items/5905366
謎の女に導かれ、澱を葬るため月へと飛び立つ「托卵」、全世界同時多発的にエミューが動物園・牧場から脱走する「わたしはエミュー」の2作を収録。文芸同人サークル造鳩會による文芸誌『異界觀相』に収録された藤井佯の作品を完全再録した短編集。おまけにはエッセイ「半年で30kg減」を収録。「托卵」は大幅リライトを予定しており、本書に収録のQRコードより新版「托卵」限定公開サイトの閲覧が可能となります。
この本を購入すると、本の冒頭についているパスワードから「新版・托卵」のリライト進捗状況と作品(できあがったとこまで)を読めるという試みをやっています。
もともと「托卵」と「わたしはエミュー」は文芸誌『異界觀相』に向けて書いた短編でして、今回異界觀相が入手困難になっている状況に鑑みて再録本として出すことにしました。とはいえ、「托卵」なんて2021年に書いたものでして、今見ると書き直したい箇所が目立つ……ということでリライトしようと思い立ったのが星々文芸博の一ヶ月前、リライト間に合わないわ!と気づいたのが二週間前になります。そのため、「本にはそのまま再録して、新版のリライトは自分のブログ上で限定公開して行おう」という方針になりました。
進捗ログには普通に「ここどうすればいいかわからない」「この設定が弱いのではないか」など創作上のメモを残していきます。一つの作品がどのように出来上がるのか見ることができる興味深い(?)取り組みでもあると思っています。
托卵/わたしはエミューリライト(してない)日記
托卵のリライト記録をつけようと思ってつくったコピ本ですが、途中から星々文芸博までにリライトが間に合わないことが確定したのでただの日記になっています。BOOTHにて『托卵/わたしはエミュー』を買うとおまけでついてきます。
詩シール
これまでに書いた詩をシールにしました。和紙製で、なんか良いです。残部僅少なので大井競馬場のフリマででも売るか〜と思っています。欲しい人いたら連絡してください。
以上になります。ここまでお読みいただきありがとうございました!そして、本を買ってもらえるとめちゃくちゃ助かります!よろしくお願いします。
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