明るいのに……

Works,

電車から降りて目の前にいたおばさんが細いチェーンの小さな鞄を肩からさげて黒い薄手の甚平を着て髪は三つ編みを長い輪ゴムで複雑に留めていた、顔は見えなかったが化粧が汗で浮いていた
図書館で貸出を受け付けてくれた図書館司書の女性の腕に無数の長い輪ゴムの束が重なっていてただれた皮膚のように見える、司書は非常に勤勉で予約していた資料を取りにしばらくカウンターの中へと姿を消した、長い輪ゴムを腕からさげたままで
制服屋の建物の茂みのなかに不自然な窪みを見つけた、そこにはきっと長い輪ゴムが積み重ねられ、直射日光を避けられる場所といえどもこの暑さのなかだからきっとどろどろに溶けてしまい一個のぶよぶよとした真四角のゴムの塊になる、ところどころから前世の細い線が飛び出ていて表面は渦巻きの紋を流し流し涼しげでもなんでもなくただこの世の不自然としてそこにある
空があまりに真っ青で、神様がクランクインしたのかと思った
図書館のエレベーターで乗り合わせたおじさんは色黒で半袖のワイシャツとスラックスで重たそうな自立する真っ黒な鞄を持っていた、髪はぴんぴんと撥ねていて体格もがっしりしていたがわたしにはどうしてもその人が青鷺にしか見えなかった、帰りがけ電車を待っているとホームに青鷺がいたので会釈しそうになったが耐えることができた
神様がゴム鉄砲を発射した
サンダルの先から自分の足の爪を見ていたら全部の指から血が出てきそうに感じた、しかしほんとうに血が出たのは右手の親指で、サンダルのホックがあまりに柔らかかったので一瞬で爪の先に赤い三日月湖が完成した
フルートの独奏を聞いたら息継ぎの音が聞こえてばつが悪かった
目を離した隙にカフェラテが瞬間移動していた
鳥を再現しようとした音楽たちのなかに鳥の姿を見つけることができずさみしかった
恐竜を線だけで描いたら絶滅したみたいになった
輪ゴムは蚯蚓の代わりに干からびてあげた
神様も休憩中は日傘を差した
ゴム鉄砲は手続き記憶だと思う
神様が発射した輪ゴムがまだ地面と擦れなかった