高橋源一郎『一億三千万人のための小説教室』感想
高橋源一郎『一億三千万人のための小説教室』(岩波新書)

https://www.iwanami.co.jp/book/b268605.html
読み始め:2023/3/21 読み終わり:2023/3/21
あらすじ・概要小説は教わって書けるようになるのか? 小説はどう発展してきたのか? 小説にとって重要なのは,ストーリーか,キャラクターか,それとも,描写なのか? こうした疑問に答える,刺激的で実践的な教室.さまざまな文体を比較して,練習問題も豊富.「先生」と「生徒」の対話を追ううちに,小説とは何か,が見えてくるだろう.
読んだきっかけ
千葉雅也が「高橋源一郎さんが岩波新書の小説入門で、小説を書くには小説よりむしろ詩や短歌や俳句を読むのを勧めていて、それは効果大だと思うのでお勧めです。」というツイートをしており、ほーん多分この本のことかな、と気になって読んでみた。結果として、そんなことは言っておらず千葉さんの記憶違いだと思うが、面白かったのでよしとする。
コメント・感想
面白かった。なんでこれ読んでなかったの、と思った。引用されている文章は、広い意味での小説で、エッセイや詩やもっと区分できないような文章など様々。それから、小説の書き方として「小説を書く前に、クジラに足がなん本あるか調べてみよう」という項目が設けられている。エーリヒ・ケストナー『エーミールと探偵たち』が引用され、「小説を、いつ書きはじめたらいいか、それが、いちばん難しい」と続く。そしてヘレン・ケラーのあの有名な一節に繋がるところ、やっぱり面白い。流れが美しすぎる。小説を書くためにケストナーは「プラーク街を長いことながめ、じぶんのさがしているような話が折りよく下を通りかからないものか、と考える」、「窓をしめ、五十三回テーブルのまわりをかけまわる」、「ながながと床にねそべる」を実行した。これが大切な鍵だと書かれていることに勇気をもらえる。私もいま、マジで書けなくて正気を保つのが難しくなっているのだが、とりあえず床に寝そべってみた。すると、昔よく、腰を両手で支えて両脚を上げるポーズをやっていたなというのを思い出し、十数年ぶりにやってみると全然腰が上がらなくてびっくりした。え? と思った。身体の老いや体力の衰えをそんなところから感じるとは思わなかった。完全に不意打ちだった。それで、二、三度そのポーズをやってみて起き上がると身体が非常に軽い。え? ともう一度思った。それから、特に小説を書けてはないのだがめちゃくちゃ元気になったのでこのメソッドには感謝している。次は、部屋の電気を消して数時間そのなかでじっとしていようかと思う。
締切が迫っているが、それまでに何か出たら儲けもので、何も出てこない可能性もある。だが、なんだかそれでもいいやと思えるようになってきた。そして、たいていそういう余裕があるときにしか小説のアイデアというのは降ってこないものなので、それを少しでも取り戻す手伝いをしてくれたこの本には感謝してもしきれない。
「まず、最初に口まねがあるのです。
あかんぼうは、なにかをまず考えてから、ことばにするでしょうか。あかんぼうは、まず、ことばを口にするのです。何度も口にしているうちに、そのことばと、ははおやから、あるいは、外の世界から教えられる、ことばの意味とが、結びつくようになるのです。」
全体の感想からずれるが、この文章を読んだときに「ChatGPTだ!」と思った。きっと、これからAIが小説を書くようになるのだろう。
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