ひまわり

Works小説

 ひまわりのことはとてもすきで、よくたべます。ひまわりをみるのもすきです。枯れたひまわりがすきなひともいますが、わたしはピンピンしてるひまわりもすきです。今日もひまわりをたべていたら、ああ、どうたべるのかわからないひともいますよね。ひまわりは、水揚げしたあと、あたまからたべます。花びらを右手できゅっとひきしめてから、口の中でひらかないようにして丸のみします。味がすきというよりは、ひまわりをたべる行為がすきなので、とくにおいしいとは感じません。ひまわりのことは、吐くこともあります。でもそれはひまわりがわるいのではなくて、最近わたしは食べたものをよく吐いてしまうのです。
 さっきも、食べたものを吐いてしまいました。いえ、もっとくわしく言うと、食べていないものを吐きました。食べたことは事実なんです。カップやきそばを食べました。でも、吐いたものはやきそばじゃなかったんです。
 それは小さな鳥でした。手元にあったカップやきそばの容器に吐き戻したのでちょうどよかったです。トイレに吐いてしまっていては、拾うのが大変ですもんね。鳥は、まだ羽がまばらで生えそろっていなくて、目もあいてない感じでした。わたしはさすがにびっくりして、ともかく鳥をきれいにしてあげなきゃと思って、キッチンで鳥を洗ってあげました。どこから来たのかわからないその鳥を、どうしても死なせてはいけない気がしました。わたしは鳥をきれいにしたあと、カイロを持った手であたためてやりました。
 鳥は、やがて目をあけました。なんの鳥だろうと思いました。ひなの画像でもわかるのかなと半信半疑でしたが、AIにきいたら「それはヨタカの雛です」とのことでした。AIに、わたしの口から出てきたことはだまっておくことにしました。また、「サポートが必要ですか?」といのちの電話につなげられたら困ると思ったからです。
 それで、ヨタカのひながなにをたべるのか調べたところ、虫とのことでした。ひまわりはたべないようでした。虫がちかくにいないので困りましたが、そういえば庭にカメムシの赤ちゃんがいたことをおもいだしました。でも、カメムシの赤ちゃん、まだ赤ちゃんなんです。赤ちゃんなのにたべられるのはかわいそうだなとおもって、まよったんですが、魚肉ソーセージをあげてみることにしました。魚肉はもう肉になっていて、しんでいるのでまあいっかとおもいました。結果的に、魚肉でもよかったみたいです。ちょっと鳥には塩分がつよすぎるのかなとおもいましたが、とりあえずはたべてくれました。そしてひとこと「ピィ」となきました。気に入ったのでしょうか。反応があってうれしいです。
 わたしは、ひなをそだてることにしました。次の日、鳥かごを買いに行きましたが、「ヒナなら水槽のほうがいいんじゃないか」と言われたので、水槽と小鳥用のヒーターを買いました。それで、キッチンペーパーをしいて、なかにカイロも入れてやって、巣? みたいに干し草をしいてあげました。ひなはとても小さくて「ピィ」となきました。かわいいです。わたしのなかから出てきたので、わたしがよくたべるものの名前をつけてあげようかなとおもって、「ひまわり」と名づけました。ひまわりは、まだとても小さいですが、魚肉ソーセージによって大きく成長してくれると思います。
 わたしは塩分ひかえめの魚肉ソーセージをスーパーでさがしてきて、毎日ひまわりに与えました。ひまわりはヨタカなので、きっと虫のほうがすきだとおもうんですけど、魚もいけるみたいでした。もりもり、すくすく、げんきにそだっています。わたしはまだたべたものをよく吐いています。
 やがて、ひまわりはすっかり羽も生えそろって、立派なヨタカの幼鳥になりました。呼び鳴きをよくします。わたしのことを親だとおもっているみたいです。たしかに、わたしが吐きだしたので、わたしが親なのかもしれません。親にはなったことがなかったので、新鮮でした。
 ひまわりは口が大きいです。食事の時間だとわかると、大きな口をパカリとひらいてごはんをねだります。かわいいです。ひまわりはしだいに水槽ではおさまらなくなり、鳥かごも検討しましたが、やっぱりおさまらないので、放し飼いにすることにしました。いまは、わたしの膝くらいまでの身長があります。
 ひまわりはとてもあたたかいので、一緒に眠ることがあります。ひまわりはうんちも大きいので、シーツの上におねしょシートをかぶせることにしています。毛布をかぶるとうんちが毛布につくので、ひまわりのあたたかさだけを頼りに眠ります。ひまわりは夢の中にも出てきて、そのときはわたしもヨタカになっています。夢の中では親子が逆転していて、わたしがひまわりの子どもなんです。わたしはひまわりの後ろを飛んでまわります。わたしはひまわりのことがとても好きなんです。
 ひまわりは、いまではわたしの身長をこえています。大きなヨタカ、立派なヨタカになったと思いますが、これはヨタカなのか? とはうすうす思っていました。ひまわりの頭に、花のほうのひまわりを飾ってあげました。ひまわりは怪訝そうな顔をしていましたが、とてもよく似合いました。それで、魚肉ソーセージもたくさん必要でした。からだが大きいのでよく食べます。仕方がないので、最終的にはわたしを食べさせることになると思います。カメムシの赤ちゃんは大きくなって、このころには立派なカメムシになっていました。仲間を呼んできたのか、庭に大量発生していたので、ひまわりに食べてもらおうかと思ったのですが、ひまわりは完全に魚肉ソーセージの口になっているようでした。ためしに庭のカメムシの大群を見せたところ、これは食べ物なんですか? という怪訝な目でこちらを見てきたので計画は頓挫しました。
 やはり、わたしを食べてもらうしかなさそうです。わたしはわたしで、もうなにかを食べたら必ず吐いてしまうようになっていて、たぶんこの先も長くなさそうなので、それだったらひまわりの栄養になるのがよさそうだな、と思いました。
 ひまわりはわたしのことを親だと思っているので、食べてくれないかもしれないと心配です。わたしを食べるにはさすがにまだ口の大きさも足りない気がします。そこで、夢の中でひまわりにわたしを食べてほしい旨を頼んでみることにしました。ひまわりは、もとよりそのつもりだったようで、次の満月の晩にわたしを食べてくれるとのことでした。サイズについては、がんばると言っていました。
 それで、満月の日がやってきました。わたしはひまわりに、「わたしを食べたら好きなところへ飛んでいっていいからね」と伝えました。ひまわりには伝わったと思います。ひまわりが床にべたっと座り込んで、大きな口をあけてくれたので、わたしは自分からひまわりの口の中へと入っていきました。ひまわりの中に完全に入ったあとで、口が閉じられて、わたしはひまわりの中へとまっさかさまに落ちていきました。落ちていったのです。どこにそんな空間があったのか、しばらく落ち続けました。きっとひまわりのからだはどこか別の場所につながっていたんですね。
 やがて、すとんと何かに抱き止められました。空は紫色で、みわたすかぎり、巨大なひまわり畑が広がっていました。わたしは巨大なひまわりの花のど真ん中に着地したのです。そうして、あたりを見回すと、わたしがたくさんいました。ひまわりの花の上に、一輪に一人ずつ、人間がくつろいでいて、どのひとも、わたしの姿をしていました。
 そのうちの一人がわたしに気づいて「おっ、来たね〜」と言いました。わたしはよくわからなかったのですが、「来ましたね〜」と答えました。わたしのことを見ているわたしも、そうでないわたしもいて、十人十色、千差万別という感じでした。わたしは「みんなここに来るんですか?」と聞いてみました。別のわたしが遠くのほうから「タメでいいよ〜」と言いました。
「ここはなんなん?」と改めて聞いてみました。
「わからん!」一人がゲラゲラ笑いました。
「おなかすいてる?」別の一人が聞きました。
「すいてないかも」というより、なにも感じませんでした。
「そーゆー場所だから!」一人がひまわりの上に寝そべって言いました。
 だれもかれも、のんびりしていました。
 わたしはばくぜんと、帰ってきたんだろうなと思いました。で、これでいいのだと思いました。でも、残されたひまわりのことは気がかりでした。
「ひまわりは今ごろ大丈夫かな」と別のわたしに問いかけたところ「まあどうとでもなるっしょ」と返ってきました。
 どうとでもなるんだな、と思いました。なんか、ぜんぶ、大丈夫だったみたいです。今までわたしにかかわってくれたひととか、ものとか、記憶とか、そういうのを思い出してみましたが、きっとそれもみんな、なんとかなるんだな、と思いました。それで、わたしの中にとある直感が芽生えました。
 きっと今ごろ、ひまわりは別のわたしを吐き出しているんです。
 それは、わたしよりもっと、わたしを上手くやれるひとです。そのひとが、なんとかしてくれるんだと思いました。なにかを。ほんのちょっとだけ、よくしてくれるんです。
 そのあいだ、わたしは少しだけ、大きなひまわりの上で休んでてもいいのかもしれないんです。戻り方もよくわかりませんし、もう戻ってこられないかもしれないけど、今はゆっくり休んでいいんだと思いました。わたしよりもっと、わたしを上手くやれるひとも、いずれわたしを上手くやれなくなって、ここへ戻ってくるかもしれません。でも、そのときまで、わたしはゆっくり休もうと思いました。
 思わずわたしは「ごめんねぇ」と呟いていました。自分でも意外でした。でも、わたしの耳にその声が届いたとき、それはもう人間の声ではありませんでした。それはもう、ヨタカの鳴き声をしていました。わたしは、それを聞き届けて、これでよかったんだな、と安心してゆっくりと目を閉じました。


                         おわり